ぜんぜん足りない。


「……チキン南蛮、わたしも好きだもん」

「あーそ」

「……同じの頼むのいや? うざい? キモい?」

「そうやって聞くのがうざい」



間もなく店員さんがやってきた。



「チキン南蛮定食ふたつお願いします」

「はい、かしこまりました!」

「それと、食後にプリンをひとつ付けてもらっていいですか」


注文を口にしたのはわたしじゃない。

プリン……。

注文を繰り返した店員さんが去っていったあとで、こおり君を見た。



「こおり君、プリン……」

「どうせ店出たあと買って帰るとか言いそうだし」

「あ、やっぱりわたし用なんだ!」

「他に誰がいんの」


くだらない会話が楽しい。

楽しすぎて危うく忘れそうになる。
律希が帰ってきたことなんか……。


ハッと我に返ったのは、スマホが鳴ってから。

メッセージじゃなくて、着信。
思わず拒否のマークをタップした。

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