年の差婚で娶られたら、国王陛下の愛が止まりません
「……待って、手当てはいつもその綿を宛てておられるの?」
 私が脱脂綿を手に、手洗いに向かおうとしたら、ドア付近に立つゴードン伯爵夫人に腕を取られた。
「? はい」
 手の中の脱脂綿は、別に特別なものではない。怪我の手当てなどに使用する、ごく一般的なものだが、なにかおかしいところがあっただろうか?
 少し怪訝に思いながら私が即答すれば、ゴードン伯爵夫人は何故か、とても驚いた様子を見せた。
「このままここで待ってらして! ……たしか、当家が賜る控えの間に置いたままになっていたと……とにかく! 私、すぐに戻りますので!」
「え?」
 口早に告げると、ゴードン伯爵夫人は私の答えを待たず、常になく急いだ様子で部屋の外に駆け出した。いつも優雅な足さばきで歩む夫人が、ドレスの裾を翻して忙しなくドアの向こうに消える……。
 私は呆気に取られ、ゴードン伯爵夫人が消えたドアを見つめて立ち尽くした。
 ……ええっと。とりあえず、夫人の戻りを待とう。
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