年の差婚で娶られたら、国王陛下の愛が止まりません
 けれど見開いたままの男の目は、あっという間に現の光を失って濁り硝子のようになった。
 時間にすれば、ここまでほんの数分の間の出来事だった。
「自死を謀ったようです。あらかじめ歯に毒を仕込んでいたのでしょう」
「そのようだな」
 サイモンは見開いたままの男の目を閉じてやり、そっと床へと横たえた。閉じられた今も、男の目からは幾筋もの涙が頬へと伝っていた。しかし男の口元は、僅かに笑みの形を結んでいるようにも見える。
 一般的に服毒死では、苦悶に歪んだ顔をして逝く事がほとんどだった。ならば、これが意味するところはなんなのだろう?
 男にとってこの最期は肉体的な苦しみを凌駕して、幸福に満たされた物だったという事なのか……。
「セラヴィン様、私は聴取中からずっとルドルフを注視しておりました。最期の言葉は声にこそなりませんでしたが、ルドルフの唇は『マルグリット』と確かにそう続けておりました」
「そうか」
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