年の差婚で娶られたら、国王陛下の愛が止まりません
 ……ならば何故、男性は脂汗を滲ませながら荒い呼吸を繰り返すのか。それは他ならない男性自身が、傷を負っているからではないのだろうか?
「毒矢が掠ったのだ。しかし俺は、幼少期より体を毒に馴らし、耐性をつけている。しばらくすれば、毒は抜ける。お前は行け。そうしてここで俺を見た事は忘れろ。そうすれば、お前の不利益となる事もない」
 男性は私の内心の疑問に答えるかのように口早に告げ、最後は力なく肩で息をした。
 ……大きな体、伸びた髭。そして男性は外套を含めた全身はもちろん、ざんばら髪も血と汗で汚れていた。目の前の血濡れの男性は、見れば見るほどに怪しかった。
 なにより、男性が許可なしに領内に踏み入った侵入者である事は間違いなく、その言葉通りだとすれば、毒が抜ければ私自身が害される可能性もある。
 ならば私は、男性を残してここを去るべきだ……。
 踵を返し、戸口に向かった。
「……これを飲んで」
 だけど、気付いた時には戸口の近くに保管していた水袋を掴み上げ、男性の元に戻っていた。
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