年の差婚で娶られたら、国王陛下の愛が止まりません
 ほんの表層だけをふんわりと掠めるように触れて、温もりはすぐに遠ざかった。同時に、顎に添えられていた手の温もりも消える。
「一年後、お前を胸に抱き締めたなら、その時はもう二度と離さない」
 耳元で、吐息と共に熱い囁きを聞いたのが最後。セラヴィンさんの温もりと気配は、煙に巻かれたように一瞬で消えた。
 慌てて瞼を開いたけれど、既に彼の姿はなかった。
「こっちだ!」
「なんと、小屋が燃えている!」
 立ち昇る炎と煙に気付いた使用人たちが、バタバタとこちらに押し寄せてきていた。
 それらの声を少し遠くに聞きながら、私の世界がキラキラと光り出す。
 セラヴィンさんが灯した希望が勇気づける。心が、かつてないほど明るく照らされていた。
「……セラヴィンさん、一年後を楽しみに待っています」
 私の小さな囁きは、小屋が燃え落ちる音に紛れた――。


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