年の差婚で娶られたら、国王陛下の愛が止まりません
 ルーカスの言葉は必ずしも正しくない。
 少なくとも俺は、ルーカスの言うところの責任でリリアを生涯の伴侶に望むわけではない。
「大人も子供もない。これが運命と思える女に出会ってしまえば、一生涯を賭す事に寸分の躊躇もない」
「……俺にはお前の言葉がよく分からん。俺はきっと、お前の言うところの『運命と思える女』というのに出会っていないのだろう」
 ルーカスは俺をジッと見つめた後、グラスを傾けて、クッと一口ワインを含んだ。
「これまでは所帯持ちの男を羨んだ事なんざ一度もなかったが、運命などとこっぱずかしい台詞をてらいもなく言ってのけるお前を見ると、少しだけ心が波立つような気もするな」
 含んだワインを味わうようにゆっくりと飲み下し、ルーカスは静かな声音で付け加えた。
 ルーカスはこれっきり口を閉ざし、場は静寂に満たされる。俺もまた、静かにグラスを傾けた。
 これ以降、杯を重ねる俺たちに言葉はなかった。しかし、言葉はなくとも、この瞬間に思うところはきっと同じだ。
 寒空に震え、追手に怯えて逃げ惑った七年間。その逃亡生活中には想像も出来なかった穏やかな夜を、俺たちは美酒と共に堪能した。
 こうしてリリア奪還の前夜は粛々と更けていった――。


< 85 / 291 >

この作品をシェア

pagetop