な、ない!【奈菜と南雲シリーズ①】
「忠犬ハチくん」

もう、どこに突っ込んでいいのやら。短く「なに」と、憮然と返す。

「じゃあ、今日六時半にさっきのコンビニな?」

「は、…え?」

「恩返ししてくれるんだろ?」

「う、うん……」

「今日仕事終わったら一緒にメシ行こうぜ」

「えっ!?私と?」

「他に誰がいるんだよ」

「や、流石にちょっと……」

コンビニスイーツの恩が飲み代になるなんて、流石にちょっと『海老鯛』が過ぎないか?

(うーん、今日の財布の中身…そんなにあったっけ?)

ロッカーの中にある財布の中身を一生懸命思い出そうとしていると、斜め上から不機嫌そうな声が降ってきた。

「なんだよ…俺と二人は不満か?」

「や、そんなわけじゃ…」

「それとも何?金曜だし他に予定があったか?……デートとか」

「でっ、……あるわけないじゃん。相手もいないのに」

「そう…だよな」

「なにそれ」

随分と失礼な相槌にムッとして言い返す。

「さすがに夕飯を奢るほどのお金はないよ?給料日前だし」

私のその言葉に、なぜか満面の笑みを浮かべた南雲。

「大丈夫。奢らせようだなんて思ってない。一緒にメシ食ってくれるだけでいいよ」

「いいの?」

「ああ」

「それって、お礼になる?」

「ああ、なる」

短くそう言い切った南雲に、「変なの……」と小首を傾げると、スッと彼の顔が私の頭のすぐ横に来た。
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