溺愛したがるモテ男子と、秘密のワケあり同居。
落ちた声は、自分でもびっくりするくらい冷たかった。
「……え?」
まさか自分に用があるなんて夢にも思っていなかったのか、途端に真顔になる寺田。
「ちょっと、こっち来て」
あっという間に出来た人だかりから逃れるように、俺は廊下の先の非常階段まで向かった。
「わ、私?」
しっぽでも振るように、嬉しそうについてい来る寺田がマジでうざい。
こんな奴とふたりきりになりたくなんてないけど、小春のためだ。
非常階段の扉がバタンと閉まる。
「永瀬くん、なにかな……?」
寺田は何を勘違いしているのか、頬を染めながら今にもニヤつきそうな顔を必死で抑えようとしている。
「アンタさ、相沢小春、知ってるだろ?」
「……っ」
小春の名前を出すと、その顔はみるみるうちに強張っていった。