三月には髪を切る〜この恋は叶いますか?〜
「お待たせしました。こちらへどうぞ」

清高の声に、未来は体を強張らせる。顔を上げれば清高がいつも通り微笑んでいた。それを見るだけで胸が痛くてたまらない。

「まずシャンプーをしますね」

未来の座った椅子が倒れ、清高が頭に触れる。時々頭皮マッサージをはさみながらのシャンプーが未来は大好きだった。失恋してしまってもその心地よさは変わらない。

「どのくらいまでカットしますか?」

清高に訊かれ、未来は「ベリーショートにしてください」と答えた。いつもはショートカットだ。

「イメチェンしたくて……」

イメチェンというのは嘘だ。本当は、ただ失恋の痛みを誤魔化したいだけだ。それでも清高は「わかりました!それでは切っていきますね」と言いながら笑う。ズキンと未来の胸が痛んだ。

いつもは髪を切ってもらう間、清高と何気ない話をたくさんする。しかし今日は、目の前に置かれたファッション誌のページをめくるだけだった。
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