独占欲強めな御曹司に最愛妻として求められています~今夜、次期社長は熱烈求婚を開始する~
求婚

 気怠い感覚を覚えながら雫はベッドの上で目を覚ました。
 
 もう朝だろうか。窓の外が薄明るい気がする。

 時間を見るために、いつも枕元に置いてあるはずのスマートフォンに手を伸ばそうとしたのだが体が動かない。
 違和感を覚えて周りを見ると、雫の部屋でない事に気づく。

(……そうだった)

 ここは奏汰の寝室だった。

 しかも、背中から抱き込まれるようにしっかり腕が回されていて動けない状況だ。
 何とか上半身をねじると奏汰の顔が目の前に現れる。

(はぁ、寝顔もイケメンなんて反則だよね)

 伏せられた長い睫毛や、力が抜けても綺麗な口元をずっと見ていたい気もしたが、自分は早く何とかした方が良い状況だ。着た覚えの無い奏汰のシャツ一枚という、何とも心もとない格好になっている。
 きっと気を失うように寝てしまった雫に奏汰が着せてくれたのだろうが、そのことも恥ずかしい。

 早く着替えたい。とりあえず梱包してクローゼットに押し込んできた服を着ればいい。まずはシャワーを浴びたいので、雫をガッチリ抱き込んでいる彼に起きて貰わないと。

「奏汰さん」

「ん……あぁ。おはよう、しーちゃん」

「おはようございます」

 遠慮がちに声を掛けると、すぐに彼は目を覚ました……が、抱きしめた腕を動かしてくれない。

「体は辛くない?」

「あ、はい。大丈夫……だと思います」

 改めて昨夜のあんな事やこんな事を思い出して、顔が赤くなる。
 正直、体は少し辛い。もしかしたら腰が立たないかも知れない。今日が日曜日で本当に良かった。

 『大事にする』と言ったように、奏汰はとても優しくしてくれた。

(優しかった。優しかったけれども!初心者相手にあんな……)

 余裕なんかなくて、あまり覚えていないけれど……なにやら恥ずかしい言葉を言われたし、
ものすごく恥ずかしい言葉を言わされた気がする。雫は心の中で羞恥に悶える。

 奏汰は抱きこんでいた腕を緩め、雫の体を自分に向け、顔に掛かった髪を優しく耳にかけてくれながら言う。

「ごめんね。今まで我慢してた分、止まらなかった。これでも頑張ってセーブしたつもりなんだけど」

(……あれでセーブしてくれてたんだ)

 普通セーブされていれば、一度で終わるのではないか。こういった事に全く免疫がなかったのでさっぱりわからない。
……わからないが、彼に求められる時間は幸せだった事は確かだ。

 蕩けるような笑みを浮かべていた奏汰が急に真顔になり上半身を起こした。
 やはり腰が立たない雫を手伝い、ふたりはベッドの上で向かい合わせに座る。

「奏汰さん?」

「俺、昨日余裕なくて、肝心な事言ってなかった」

 少し緊張したようなトーンで言うと、スッと雫の手を取る。

「安藤雫さん。僕と結婚してください」

「……!」

「本当の婚約者になって欲しい。元々俺はフリでも無かったけど。ていうか、すぐにでも結婚したい」

 まっすぐな視線で奏汰は雫を捉える。

「いいん……ですか?私で」

「しーちゃん以外考えられない――これからの人生、君と一緒に生きていける幸せを俺にくれない?俺も全力で君を幸せにする」

――自分なんかがとか、不釣り合いだとか、家柄が合わないとか否定的な言葉が口から出掛けたが、止めた。

 気持ちが通じ合う喜びを知ってしまった今、彼と離れるなんで出来る気がしない。

 それなら。

 恋する気持ちは時として強さや大胆さをもたらす。

 目の前で大好きな人が真剣な顔で返事を待っている。だから雫もはっきりと言う。
 自分でも不思議なほど迷いがなかった。

「はい。よろしくお願いします。本当の婚約者にしてください」

 緊張の面持ちだった奏汰は気が抜けたように破顔し、目の前の愛しい婚約者をそっと抱きしめる。

「……ありがとう。大好きだよ。しーちゃん」

「……はい。私も、です」

 雫も奏汰の広い背中に精一杯手を伸ばし抱きしめ返す。しばらくふたりは幸せな気持ちで優しく抱きあった。

「良かった。ほんと、ここまで来てプロポーズを断られたら、俺、立ち直れなかったかも。ただでさえ一昨日君に家出されて、もぬけの殻になった部屋を見て、膝から崩れ落ちるほどの大ダメージを受けてたんだから」

「そ、それを言われると……」

「もう、黙って出て行っちゃダメだからね」

「……はい」

 勘違い家出は無かったことにしたいが、無理そうだ。

「あっ、今何時ですかね?そろそろシャワー浴びたいかな、なんて」

 旗色が悪くなった雫がごまかすように言うと、とんでもない返事が返って来た。

「じゃあ、一緒に入ろう」

「へ?」

 間抜けな声が出てしまった。

「君は俺のせいで腰が立たないし、お風呂まで連れてかなきゃならないよね。俺もシャワーを浴びたい。効率的且つ、時短で済ますには一緒に入るのが正解だと思わない?」

 そう言いながら奏汰はベッドから素早く降り雫を抱き上げ、キョトンとしている目元にキスをする。

「えっと?」

「しーちゃんかわいい」

 そして奏汰は流れるように寸分の無駄の無い動きで浴室に向かう。

 結局、箍が外れた婚約者の思惑通り、時短はかなわないのだった。

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