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おまけ話3 羽野家の小さな王子さまのお話
こんにちは
ぼくは、ひばり組の、羽野大河 って言います。
ひばりさんは年中組さんだから、ちょっとお兄さんになったんだよ。
来年は年長さんになれるのが楽しみなんだ。年長さんはもっとお兄さんだもんね!
ぼくは、お父さんとお母さんと3階建てのマンションの3階に住んでいるんだ。
この前、お父さんはもう少し大きなお家に引っ越そうかと言っていたけど、お母さんは引っ越さなくていいって言ってた。
ずっと住んでいるこのお家が好きなんだって。
僕もこのお家好きだよ。公園が近くにあって、お休みの日はいっぱい遊べるもん。
そうそう、お家のリビングにはサボテンがいくつも飾ってあって、みんな名前がついているんだ。『サボ丸』にはこの前ピンクのお花が咲いたんだよ。
ぼくのお父さんは、おじいちゃんの会社で『せんむ』っていうお仕事をしてるんだって。
どういうお仕事か、ぼくには良くわからないけど、とても忙しいんだって。
ぼくが寝た後に帰って来る事も多いみたいだから大変なのかな。
ホントは毎日お父さんと一緒にお風呂に入ったりしたいんだけどな。
だってお父さんはいつも優しいし、遊んでくれるし、いろんなことを教えてくれるから大好きなんだ。
でもね。ぼくが前にとっても悪いことをしちゃった事があって、お父さんは大きな声は出さないんだけど、じっと目を見ながらお話を聞いていたら、ぼくは本当にごめんなさいって気持ちになって泣いちゃったんだ……あ、思い出したらまた泣いちゃいそう。
でも、お休みの日には思いっきり遊んでくれるし、いろんなところに連れて行ってくれる。
時間が出来るとお母さんの代わりに幼稚園に送ってくれたりするんだ。
お母さんも、おじいちゃんやお父さんのお仕事のお手伝いを週の半分くらいしてるし
「大河のお世話やお家のこともあるから、お父さんが出来る事はやるのは当たり前なんだよ」
って言って、お家にいる時はお掃除してくれたり、ご飯も作ってくれる。
お父さんのご飯もおいしいよ。
でもやっぱりお母さんのご飯の方が好きなんだ。ナイショだけどね。
お父さんもお母さんの作るご飯が世界で一番おいしいって言ってたからいいかな。
ぼくもお母さんが困らないように自分のお仕度は自分で出来るようにがんばってるんだ。
あとお手伝いも!
まだちゃんと出来ない事もあるんだけどね。
さっきのお話だけど、
お父さんが幼稚園に送ってくれると、お友達のお母さんたちは何でか分からないけど
いつもより落ち着かなくなって、ニコニコしてお父さんに話しかけて来るんだ。
あ、みゆき先生もいつもよりお顔が赤く見えるんだよね。
お父さんも笑ってお話しする。
でも、お母さんやぼくにするニコニコとは違うような気がする。
お父さんはお母さんの事をお外では『奥さん』と呼ぶことが多いけど
『お母さん』とは呼ばなくて、 お家では『しーちゃん』と呼んでる。
お父さんはいつも優しいけれど、お母さんにそうやって話しかける時はとっても……嬉しそうなニコニコをしてるんだ。
お母さんは恥ずかしそうに「もうその呼び方は……」って言っている。
でもとってもかわいいお名前だと思って
「ぼくもお母さんの事『しーちゃん』って呼びたい!」ってお父さんに言ったんだ。
そしたらね……
「しーちゃんは、大河のお母さんだろう?」
「うん」
「だから、大河は『お母さん』って呼ばないと、周りの人が、大河のお母さんが誰だか分からなくて困ると思うんだ。みんなが困ったらどう思う?嫌な気持ちにならないか?」
「うーん、そうだね。お母さんはぼくのお母さんだから、みんなが分からなくなると、ぼくはイヤだな」
「そうか。大河は良い子だね」
と、お父さんはぼくの頭をよしよしってしながら笑ってくれた。
だからぼくはみんなが困らないように今まで通りお母さんって呼ぶことにした。
ちょっとがっかりだけどね。
でも、そのお話を藍美ちゃんにしたら
「アイツそもそも私の事『お姉ちゃん』なんて呼んだことなくね?……教育上?まさか、実の息子に牽制……?」
って低い声で言ってたけど、けんせいって何だろう?
でも藍美ちゃんはお父さんのお姉さんだから『おばさん』って言えばいいってお父さんに聞いたから、そう呼んだら、めちゃめちゃ怖い顔でにらまれちゃったんだ。
だからいつも「藍美ちゃん」って呼んでる。
藍美ちゃんはお姉さんみたいだから「おばさん」はダメなのかな、と思っていたら
「いいかい?タイガ、日本人は『空気を読む』事が大事だヨ、ボクはアメリカ人だけどソレが出来る」
とスティーブが教えてくれた。
空気を読む?むずかしいな。空気に字は書いてないのに。
スティーブは藍美ちゃんのだんなさんで、目が青くて背がとっても高いんだ。
お父さんも背が高いけどスティーブに肩車してもらうとドキドキするくらい高くなる。
スティーブは『アンクル』だけどスティーブでいいんだって。
もう、いろいろ呼び方があってむずかしいよ。
藍美ちゃんとスティーブの子供で、僕のいとこの映美ちゃんは『ハーフ』でお人形さんみたいにかわいい。
でも、ぼくよりお姉さんだから、遊んでいてもゲームしても絶対に負けちゃう。
インターナショナルスクールでは男の子と言い合いしても、負けないんだって。
スティーブが言うには「アイミに似てる」んだって。
うん。見た目はかわいいのに言葉が怖いのは似てるかも。
でもねぇ、聞いて。ぼくのお母さんはかわいいし、とっても優しいんだよ。いいでしょ。
お父さんもお母さんの事をいつも「かわいい」「好き」ってお母さんが恥ずかしがるくらい言ってるよ。
ぼくはね。お母さんが笑うと嬉しくて、ギュッて抱きしめてもらうのが大好き。
とっても柔らかくて優しい気持ちになるんだ。
幼稚園に入った時はお母さんと離れなきゃいけなくてちょっと寂しかったんだ。
でも、今はお友だちもいっぱい出来たから楽しいんだ!
同じひばり組さんの、崎本優吾くんは一番の『しんゆう』なんだよ!
一番仲の良いお友達のことを『しんゆう』って言うんだよね?
そうそう、幼稚園の話だよね。
さっき言ったみたいに、お父さんはお友達のお母さんからも人気があるんだ。
お友達も「大河くんのお父さん王子様みたい」って。
王子さま!かっこいいよね。
ぼく、おゆうぎ会で王子さまの役をやったことがあるんだよ。
お友達の女の子も先生もみんなが「大河くんが絶対似合う」って言ってくれたから
張り切って王子さまの役をやったんだよ。
みんなとってもほめてくれたから、がんばって良かったなぁ。
でも、見に来ていた優吾くんのお父さんの賢吾さんには
「……お前末恐ろしいな」
って言われた。
よくわからないけど、僕のお顔はお父さんにそっくりなんだって。
お父さんにお顔が似てるからぼくも王子さまに見えるのかな。
お父さんが王子さまならお母さんはお姫様だ。
お母さんはもともとかわいいけどお仕事の「パーティ」でとってもきれいなお洋服を着ていくときは、お姫さまみたいだ。
でもお母さんはあまり「パーティ」に行くのは好きじゃないみたい。
「派手な場所は緊張するの」っていうんだ。
お父さんは嬉しそうだけど「こんなに綺麗なしーちゃんを人に見せたくないな」って言って、お母さんにいつもよりくっ付いてるんだ。
ぼくはキレイなんだから、すごいでしょ!っていろんな人に見せたらいいのにって思うんだけど違うのかな。
あんなにくっ付いていくんだから、きっとお父さんはお母さんを王子さまみたいに守るんだろうな。
お父さんとお母さんがパーティでお出かけする時は
僕が赤ちゃんの頃からお世話になっているお手伝いさんとお留守番したり、藍美ちゃんちに行ったりするんだ。
お父さんがいるから僕はお母さんの王子様にはなれないんだろうな。
ちょっと寂しいなって思ってたんだ。
そしたらね。
ちょっと前に優吾くんちに妹の「ほのか」ちゃんが生まれたんだ。
優吾くんは「すごいかわいいよ!」って嬉しそうに言ってた。
ぼくも早く会ってみたいなって思ってんた。
優吾くんのお父さんの賢吾さんと、お母さんの沙和子ちゃんは、ぼくのお父さんとお母さんの『しんゆう』なんだ。
だからぼくもよく、優吾くんの家に遊びに行ったり
優吾くんが家に遊びに来てくれてるんだ。
久しぶりに優吾くんちに家族で遊びに行ったんだけど……
赤ちゃんってすごくかわいいんだね!
手を洗ってから(赤ちゃんを触る時はちゃんとバイキンをやっつけなきゃだめなんだよ)
沙和子ちゃんに触っていい?って聞いたら、いいよって言ってくれたのでベビーベッドで寝ている赤ちゃんをドキドキしながら指で手をツンツンってしたら、僕の指をギュッと握ってくれた。
とっても小っちゃくて。
そしたらね、目が開いてぼくの顔をじっと見たんだ。
胸がきゅーんとして、すごく可愛くて、優しくしてあげなきゃ!って思った。
ほのかちゃんのそばから動かないぼくを見て、沙和子ちゃんが
「大河がこの子の王子様になったりしてねー」
って言ったんだ。
え、王子さま?
王子様はお姫様を守るんだよね。
ぼくはお母さんの王子さまにはなれないかもしれないけど、ほのかちゃんの王子さまになれるのかな?
何だかそう思うとステキだとワクワクしてきた。
まだほのかちゃんは赤ちゃんだからお姫さまには見えないけどね。
「じゃあ、ぼく、ほのかちゃんの王子さまになろうかな!」
嬉しくなって、そう言ったらみんな笑ってくれたけど
賢吾さんだけがちょっと怒ったような困ったような顔をしていた。なんでだろう。
賢吾さんの顔をみてお父さんお母さん、沙和子ちゃんがまた笑った。
そうしたらぼくの指を握ったまま、ほのかちゃんも笑ってくれたんだ。
またぼくのこころがホカホカになった。
赤ちゃんって可愛いな。優吾くんはいいな。
ぼくは優吾くんがとてもうらやましくなった。
ぼくの家にも妹か弟が来てくれる事になるのが分かったのは、
それからもうちょっと後のこと。