独占欲強めな御曹司に最愛妻として求められています~今夜、次期社長は熱烈求婚を開始する~
起床
緊張で寝れないかと思っていたが 、疲れていたのと、寝心地の良いベッドのおかげでぐっすり眠れてしまった。
これまた肌触りの良い掛け布団の中で雫は目を覚ました。
アパートから持ってきた目覚まし時計は6時を指している。
羽野のマンションに来て初めての朝だ。
(朝ごはん、何か作った方が良いかな……)
羽野にはプライベートは守りつつ、お互いに慣れるため、なるべく一緒にいる時間を持とうと言われた。
夕食はお互いに忙しくて時間を合わせるのが難しそうなので、基本朝食だけは一緒に取ろうということになった。
ベッドから出ると、見慣れたものが目にとまる。丸い小さなサボテン、雫の大切にしているサボ丸だ。こちらに連れて来ていて、昨日はとりあえずベッドのヘッドボードの上に置いてみた。
「ちょっとここじゃ日当たりがいまいちかなぁ」
きょろきょろと部屋を見渡す。
雫の部屋として提供された部屋は一人で使うには十分すぎる広さがあり、ウォークインクローゼットもある。
持ち込んだ荷物もわずかなので、より広く感じる。決して暗いわけではないのだが、リビングの方が環境がよさそうだ。
サボ丸を乗せている皿ごとそっと持ち上げリビングに向かう。
広々とした空間に朝の光が明るく差し込んでいる。
まだ羽野は起きてきていないようだ。
壁に沿って設えてあるシンプルだが、物は良いであろうブラウンのリビングボードの端が、窓に面していてちょうど日当たりがよさそうだ。
そっと置いてみる。家具のセンスが良いのでサボ丸まで洒落たインテリアに見えてくるから不思議だ。
「ふふ。サボ丸。ここは日当たりが良いねー。」
白いふんわりした棘を撫でながら屈んで話しかけているとキッチンの方から物音がした。
慌てて振り返るとスウェット姿で羽野が立っている。
寝起きのスウェット姿なのに不思議と爽やかさは失われていない。
ただ、表情が固まっている。
「おはよ……サボ丸って、そのサボテンのこと?」
「お、おはようございます。はい……名前を付けてまして。すみません……」
羞恥で声が小さくなる。
(見られた……!は、恥ずかし過ぎる。朝っぱらからサボテンに話しかける女。痛すぎるでしょ)
更に、こちらも寝起きでパジャマ代わりの部屋着姿である。
雫が着ているのは去年の誕生日に沙和子からプレゼントされたもので、アイボリーのふわモコ生地で肌触りが良くて気に入っている。だが、ガーリーなデザインの上、ショートパンツなのだ。生足を思いっきり晒してしまっている。
「……っかわいい……」
しばらく雫を見つめていた羽野は小さな声で言うとダイニングテーブルに両手を付く。
がくりと頭をもたげテーブルを見つめながらなにやら低い声で呟いている。
「破壊力が」とか「理性って」と聞こえたような気がするが、耳がほんのり赤くなっている。
よっぽどいたたまれなかったんだろう。やはりとんでもなく恥ずかしい。
今すぐここから逃げてしまいたい。
(サボ丸が可愛いって言ってごまかしてくれている。やっぱり優しい人だ)
「あ、ありがとうございます。まるい形が可愛くて気に入っていて……えっと、ここに置かせてもらってもいいですか?」
冷静を装い取り繕うように言う。
「え?……あ、うん。もちろん良いよ」
一瞬間があった後、気を取り直したように羽野はゆっくり近づいてきて雫の横に立った。
(ん?羽野さんもサボ丸を見たいのかな?)
そう思った瞬間、彼の右手が雫の左肩に乗り、かがんだ気配がし、こめかみのあたりに何か柔らかいものが軽く押し当てられ、一瞬でそっと離れていった。
「え……な、何を?」
「ん、朝の挨拶?さぁて、朝ごはんにしよっか。着替えてくるね。しーちゃんも着替えておいで」
「あ、ハイ」
羽野は柔らかく微笑みながら雫の髪を一度優しく撫でた後、自室に戻っていった。
(あれ、今のは?)
――キスされたのではないか?
一連の流れが自然過ぎて何の反応も出来なかった雫は、こめかみを押さえて固まったまま
彼の後姿を見送った。