転生聖女は幼馴染みの硬派な騎士に恋をする
第2話「俺は愛の伝道師」
【大門寺トオルの告白①】
ここは、都心より少し奥まった某私鉄の駅、更に徒歩5分。
狭いワンルームマンションの殺風景な一室である。
家具も電気製品も、必要最低限しかない……
ひとり暮らしをする、シンプルな俺の住まいだ。
俺は大門寺トオル、25歳。
しがない入社3年目の貧乏リーマン。
俺が勤めている会社は、世間から厳しい労働条件を指摘され、マスコミからバンバン叩かれていた。
いわゆるブラック企業という奴だ。
同期入社の仲間は……結構やめた。
30人ほど入って、3年経って残っているのはたった5人だけ。
だけど、俺は辞めずに頑張って勤めている。
確かに仕事はきつい。
でもその分、同世代の世間平均より、ほんの少しだけ給料が良い。
俺は金だけが理由で、何とかやめずに我慢出来ている。
そう!
俺は金を!
金をガンガン稼ぎたいんだ。
思う存分遊びたいから?
凝った趣味に惜しみなく使いたいから?
確かに、そう思う時もあった。
だが、第一の目的は、『貯金』をしたいから。
え?
何故、そこまで金を貯めたいのかって?
それは、俺につよ~いつよい、『結婚願望』があるからなのだ。
え?
もう結婚?
全然早いよって?
25歳なのに、何故だって?
まだまだ若いし、もっともっと遊べるぜぇとか、
嫁とはいえ、赤の他人に縛られるのなんて、勿体無いよぉ……
と、疑問に思い、忠告してくれる人も大勢いるだろう。
確かに昔ほど、結婚に夢がなくなっているこのご時勢……
子供が生まれても、育てるのに凄く難儀する時代だものね……
でも俺が、ここまで結婚に憧れるのには深~い理由がある。
ちょっと話が長くなるけど、聞いて欲しい。
実は俺、小さな子供の頃から、同じ年頃くらいの女子に良く相談されていた。
私見だけど、女子は男より早く、心が大人になる。
まだ幼い小学生だって、立派な『恋に悩む乙女』であり、
大体が恋愛相談だった。
でも肝心の相手は……俺じゃないんだな、これがさ。
一番多いパターンは、といえば、
「トオル君の友達の、〇〇君ってカッコいいよね。私が好きって、伝えておいて」
って奴さ。
小学校の時から、25歳になった社会人の現在まで、ず~っとだ。
そう!
歴史は繰り返すという格言は当たってる。
大人になってからも、状況は全く変わらない。
友人や知人から、合コンのセッティングや出席を頻繁に頼まれる。
何故ならば、俺が出席した合コンはカップル成立が続出しているから。
口コミで俺の噂が広がり、あだ名が付いた。
『愛の伝道師』だって。
う~ん、微妙。
だってさ『流星の戦士』とか、『炎の魔法使い』なんて、
冒険者のふたつ名みたいに、恰好良くはないよね。
ちなみに何故、こんなオタクっぽい事を言うのか?
実は、一般公開していないけれど……
この年齢でも、結構な中二病なんだ。
聖地『秋葉原』には頻繁に遊びに行く。
中世西洋風異世界を舞台にした、ラノベなんかも良~く読んでる。
話がそれたから、元に戻すと……
愛の伝道師のあだ名を付けられ、
「無理やり呼ばれて、上手く使われるだけの、便利屋的な参加なの?」
と、聞かれれば、そうでもない。
俺は元々、大の合コン好き。
理由は簡単。
可愛い女の子と楽しく美味しい酒を飲むのは最高だから。
更に言えば、俺は彼女が居ない癖に、不思議と「がつがつ」していなかった。
元々、人の世話を焼くのが大好きでもあった。
もしも自分が個人的に惚れなければ……
友達が可愛い女の子と仲良くするのも、微笑ましいと感じていた。
そんなこんなで……
俺が合コンに出る事、通算99回。
え?
何故、参加回数が分かるのかって?
いやいや、頻度が多いと出費が厳しい。
せこいけど、貧乏リーマンの俺は、飲み会の通算参加回数を数えていたんだ。
ついでにカップルが成立したのもチェックしていたら……
何と何と55回!
これ、常識では考えられない数字じゃないか?
つまり!
俺と一緒に合コンに出ると、2回に1回以上は相手に巡り合える計算なのだ。
え?
計算が間違ってる?
ごめん、あまり考えずに言ったけど数学は大の苦手なんだ。
まあ、何を言いたいかといえば、俺と合コンに参加すれば貴方だけは彼女が見つかるかもって事。
あ、そこの貴方。
人畜無害な俺ならば、ぜひ合コンに連れて行きたいと思ったでしょ?
これが偶然なのか?
それとも、愛を求めあうふたりを俺がフォローしたのが寄与している?
……かは、良く分からないけど……
でも、その結果……
同級生や友人、先輩、後輩には早くも結婚に至った者もたくさん居る。
「やっぱり恋のキューピッドだ」と新郎新婦に絶賛された事も数多い。
仲睦まじく幸せそうなカップルを見ると、俺まで心が温かくなる。
あの幸せを味わいたくなる。
良く言うよね。
人間はひとりでは生きていけないって。
すなわち……
結婚すれば、大好きな人とずっとずっと一緒に居られる。
日々、愛し愛される甘い生活を夢見たい。
だから、俺は結婚に憧れる。
結婚にとても否定的な意見も良く聞くけど……
はじめからネガティブには考えたくない。
でも!
でもですよ。
結婚する以前に、恋愛経験はどうなのって感じ?
最近は、合コンに出る度、自問自答している。
まあ、これまでに……
一応というか、それなりの結果は出ていた。
合コンに99回も参加した結果、多くの女の子とは知り合えた。
そのうちの何人かとは、その後のケアも抜かりなく、続けて会う努力もちゃんとした。
おしゃれな街に出て、万全なデートも散々やった。
会う場所も外してなかった筈だし、食事も相手から不満は出なかったと自負している。
でも、不思議というか、残念というか自らの恋にはつながらない。
微妙な間柄の女友達は出来るが、正統な『彼女』はずっと出来ないのだ。
ちなみに相手の女性からは、いつも……
「トオルさんは、本当に良い人ね、私には勿体ないわ」
とか、
「今後は良き友人として、付き合いましょうね」
と、言われる始末……
ああ、良い人とか、良き友人としてとか……
なんて遠回しな断りの言葉は……
もう、聞きたくないぞ。
結局、俺は少年時代から、せっせと……
他人の恋愛の世話ばかりして来たのだ。
しかし!
『愛の伝道師』と呼ばれる俺も、いい加減に目が覚めた(自虐笑い)。
いくら「人の世話が嫌いではない」といっても限度がある。
気が付けば……俺はず~っと彼女なし、ひとりきりの恋愛ボッチ。
ヴァレンタインもクリスマスも、おひとりさま。
……そういえば、淡い恋の想い出がある。
今から考えれば、多分それが俺の初恋なのだろう。
幼稚園の頃、近所に住む可愛い同年齢の女の子が居た。
俺はその子が好きで、良くふたりで遊んでいた。
せがまれて、おままごとをして……
同性の友達によくからわかれたけど、全然平気だった。
でも、その子が引っ越して、初恋は呆気なく終わった……
離れ離れになり、寂しくて、悔しかった事を憶えている……
そもそも俺は、恋愛がメンドクサイなんて考えてない。
だから、毎晩、神様にお願いする。
願いを叶えてくれるなら、どんな神様でも良い!
そろそろ愛する彼女が欲しい。
真剣に結婚を前提にした、お付き合いが出来る彼女が欲しい。
だが、人間は、現状のまま流されやすい。
俺だって、そう。
自己啓発本に書いてあるみたいに、いきなりは変わったりも出来ないし。
相変わらず……
合コンでは、人のお世話ばかりである。
周りの奴等も、俺の利用価値を良く知っている。
俺を参加させれば、座持ちが良くて盛り上がるし、結果的に縁起も良い。
だから、「ここぞ!」とばかりに頼んで来る。
その上、しっかり……割り勘だ。
ああ、やめてくれ!
もう、他人の世話はNGと言いたい。
俺だって、そろそろ幸せになりたい。
一見、にこやかに振る舞う俺だが、陰では悩みに悩んでいたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そんな、ある日の事……
学生時代から始まった、それは節目といえる、
記念すべき俺の人生通算100回目の合コン。
気合を入れて臨んだが、言うは易く行うは難し。
結局、いつものように人の世話ばっかり焼いていた。
そんな俺を見かねたのか……
ひとりの女の子が声をかけてくれた。
優しく、声をかけてくれたのだ。
彼女の、鈴を転がすような美声にハッとした。
声に釣られてつい彼女を見やれば、素敵な笑顔に引き込まれてしまった。
凄く可愛い!
笑うと目がうんと細くなり、更に垂れ目となる。
屈託のない笑顔を見れば心がじんわり温かくなる、いわゆる癒し系女子だ。
肩まで伸ばした、綺麗なサラサラ黒髪が目立つ。
そして……
俺は極度のおっぱい星人なので、
「ふわん」と大きい胸にもつい目が行ってしまった。
そう、名前は敢えて言わないが、彼女は某人気アイドルにそっくり。
でも何故か、初対面とは思えない。
何となく、そんな気がした……
合コンの際って、最初に名前だけは告げる。
だが俺達は改めて、自己紹介をし合った。
俺が先に名乗り、彼女も名乗った、
気になる名前は……相坂リン。
ええっと……
リンって名前にも、何となく聞き覚えがある。
でも……
はっきりとは思い出せない。
俺が考え込んでいると、
更に詳しいプロフをリンちゃんは教えてくれた。
彼女は3つ先の駅前にある大学病院で、看護師をしているそうだ。
勤務が普段、とっても不規則なので、滅多に合コンには参加しない。
だが、今日はたまたま休日でスケジュール調整が出来たという。
リンちゃんは、以前から俺の事を、友人の噂で聞いていたらしい。
他人の『縁結び』ばかりしている奇特な男子が居ると。
そんな理由を聞けば、
話しかけてくれたのは、単なる興味本位なのに間違いはないだろう。
だが、リンちゃんは俺の話をいろいろ聞いてくれた。
病人をケアする、看護師という職業柄かもしれない。
でも聞き上手と言うか、いつもは聞き役が多い俺にとって凄く新鮮だった。
リンちゃんが話す柔らかい言葉の端々に気配りは勿論、優しさと落ち着きが随所に感じさせられる。
自然と、話が弾んだ。
会話が途切れても、見つめ合うだけでお互いに微笑んでしまう。
ああ!
もう駄目だ。
俺はすっかりリンちゃんが気に入った。
なので、いつもより断然気合を入れた。
この大チャンスを逃してなるものかと
凄く頑張った。
自分で言うのも何だが、生まれて初めて死ぬ思いで頑張った。
そして、一生懸命リンちゃんを口説いた結果が出た。
何と!
幸運にも明日、ふたりきりで会う約束を取り付ける事が出来たのだ。
いわゆる即デートである。
うん!
今回に限って、奇跡的に俺はついていた。
普段は超が付く忙しさのリンちゃんなのに、今日は休み。
お陰で俺は、彼女と出会う事が出来た。
加えて、リンちゃんは明日もたまたま代休を取っていた。
本当は、激務に疲れた身体をゆっくり休めたいだろうに……
初対面の俺の為、わざわざ貴重な時間を割いてくれるなんて大感謝だ。
この子は違う!
いつもとは違う!
確かな手ごたえがある!
運命の出会い、そんな予感がする。
そんなこんなで……
素敵な出会いの予感を胸に俺はうきうき気分で帰宅した。
今夜は寒い。
寒波襲来だとテレビでは言っていた。
フローリング仕様の床が、殊更《ことさら》冷たく感じる。
しかし、部屋の真ん中に座った俺は、とんでもなく元気一杯だ。
遂に俺にも遅い春が訪れた!
とばかりに、力強く拳を突き上げてしまう。
おっと!
明日はリンちゃんとの初デート。
しっかり予習をしておこう。
……1時間が経った。
うんうん。
『調べ物』もバッチリ。
ノートPCを「ぱこん」と閉める。
これで……準備は万全だろう。
「ようし、よしっ! 今度こそ! 特にクリスマスは絶対に、可愛い彼女と過ごす! あの子と楽しく、素敵な夜を過ごすんだっ!」
笑いが止まらない俺は、今度は立ち上がって踊り始める。
心の底から吹き上がる、わくわく感が止まらない。
事情を知らない人が、傍から見たら、凄く変な奴だと思うだろう。
そして、「お前は何がそんなに楽しいのか?」
と、必ず聞いて来るだろう。
でも!
踊りたくなるのも分かって欲しい。
何故なら、俺の居る世界が一気に薔薇色《ばらいろ》に染まったから。
はやる気持ちを抑え、神様へ、
「素敵な出会いをありがとう」と言ってしまった。
そして……安らかな気持ちでその日は素直に寝たのである。
ここは、都心より少し奥まった某私鉄の駅、更に徒歩5分。
狭いワンルームマンションの殺風景な一室である。
家具も電気製品も、必要最低限しかない……
ひとり暮らしをする、シンプルな俺の住まいだ。
俺は大門寺トオル、25歳。
しがない入社3年目の貧乏リーマン。
俺が勤めている会社は、世間から厳しい労働条件を指摘され、マスコミからバンバン叩かれていた。
いわゆるブラック企業という奴だ。
同期入社の仲間は……結構やめた。
30人ほど入って、3年経って残っているのはたった5人だけ。
だけど、俺は辞めずに頑張って勤めている。
確かに仕事はきつい。
でもその分、同世代の世間平均より、ほんの少しだけ給料が良い。
俺は金だけが理由で、何とかやめずに我慢出来ている。
そう!
俺は金を!
金をガンガン稼ぎたいんだ。
思う存分遊びたいから?
凝った趣味に惜しみなく使いたいから?
確かに、そう思う時もあった。
だが、第一の目的は、『貯金』をしたいから。
え?
何故、そこまで金を貯めたいのかって?
それは、俺につよ~いつよい、『結婚願望』があるからなのだ。
え?
もう結婚?
全然早いよって?
25歳なのに、何故だって?
まだまだ若いし、もっともっと遊べるぜぇとか、
嫁とはいえ、赤の他人に縛られるのなんて、勿体無いよぉ……
と、疑問に思い、忠告してくれる人も大勢いるだろう。
確かに昔ほど、結婚に夢がなくなっているこのご時勢……
子供が生まれても、育てるのに凄く難儀する時代だものね……
でも俺が、ここまで結婚に憧れるのには深~い理由がある。
ちょっと話が長くなるけど、聞いて欲しい。
実は俺、小さな子供の頃から、同じ年頃くらいの女子に良く相談されていた。
私見だけど、女子は男より早く、心が大人になる。
まだ幼い小学生だって、立派な『恋に悩む乙女』であり、
大体が恋愛相談だった。
でも肝心の相手は……俺じゃないんだな、これがさ。
一番多いパターンは、といえば、
「トオル君の友達の、〇〇君ってカッコいいよね。私が好きって、伝えておいて」
って奴さ。
小学校の時から、25歳になった社会人の現在まで、ず~っとだ。
そう!
歴史は繰り返すという格言は当たってる。
大人になってからも、状況は全く変わらない。
友人や知人から、合コンのセッティングや出席を頻繁に頼まれる。
何故ならば、俺が出席した合コンはカップル成立が続出しているから。
口コミで俺の噂が広がり、あだ名が付いた。
『愛の伝道師』だって。
う~ん、微妙。
だってさ『流星の戦士』とか、『炎の魔法使い』なんて、
冒険者のふたつ名みたいに、恰好良くはないよね。
ちなみに何故、こんなオタクっぽい事を言うのか?
実は、一般公開していないけれど……
この年齢でも、結構な中二病なんだ。
聖地『秋葉原』には頻繁に遊びに行く。
中世西洋風異世界を舞台にした、ラノベなんかも良~く読んでる。
話がそれたから、元に戻すと……
愛の伝道師のあだ名を付けられ、
「無理やり呼ばれて、上手く使われるだけの、便利屋的な参加なの?」
と、聞かれれば、そうでもない。
俺は元々、大の合コン好き。
理由は簡単。
可愛い女の子と楽しく美味しい酒を飲むのは最高だから。
更に言えば、俺は彼女が居ない癖に、不思議と「がつがつ」していなかった。
元々、人の世話を焼くのが大好きでもあった。
もしも自分が個人的に惚れなければ……
友達が可愛い女の子と仲良くするのも、微笑ましいと感じていた。
そんなこんなで……
俺が合コンに出る事、通算99回。
え?
何故、参加回数が分かるのかって?
いやいや、頻度が多いと出費が厳しい。
せこいけど、貧乏リーマンの俺は、飲み会の通算参加回数を数えていたんだ。
ついでにカップルが成立したのもチェックしていたら……
何と何と55回!
これ、常識では考えられない数字じゃないか?
つまり!
俺と一緒に合コンに出ると、2回に1回以上は相手に巡り合える計算なのだ。
え?
計算が間違ってる?
ごめん、あまり考えずに言ったけど数学は大の苦手なんだ。
まあ、何を言いたいかといえば、俺と合コンに参加すれば貴方だけは彼女が見つかるかもって事。
あ、そこの貴方。
人畜無害な俺ならば、ぜひ合コンに連れて行きたいと思ったでしょ?
これが偶然なのか?
それとも、愛を求めあうふたりを俺がフォローしたのが寄与している?
……かは、良く分からないけど……
でも、その結果……
同級生や友人、先輩、後輩には早くも結婚に至った者もたくさん居る。
「やっぱり恋のキューピッドだ」と新郎新婦に絶賛された事も数多い。
仲睦まじく幸せそうなカップルを見ると、俺まで心が温かくなる。
あの幸せを味わいたくなる。
良く言うよね。
人間はひとりでは生きていけないって。
すなわち……
結婚すれば、大好きな人とずっとずっと一緒に居られる。
日々、愛し愛される甘い生活を夢見たい。
だから、俺は結婚に憧れる。
結婚にとても否定的な意見も良く聞くけど……
はじめからネガティブには考えたくない。
でも!
でもですよ。
結婚する以前に、恋愛経験はどうなのって感じ?
最近は、合コンに出る度、自問自答している。
まあ、これまでに……
一応というか、それなりの結果は出ていた。
合コンに99回も参加した結果、多くの女の子とは知り合えた。
そのうちの何人かとは、その後のケアも抜かりなく、続けて会う努力もちゃんとした。
おしゃれな街に出て、万全なデートも散々やった。
会う場所も外してなかった筈だし、食事も相手から不満は出なかったと自負している。
でも、不思議というか、残念というか自らの恋にはつながらない。
微妙な間柄の女友達は出来るが、正統な『彼女』はずっと出来ないのだ。
ちなみに相手の女性からは、いつも……
「トオルさんは、本当に良い人ね、私には勿体ないわ」
とか、
「今後は良き友人として、付き合いましょうね」
と、言われる始末……
ああ、良い人とか、良き友人としてとか……
なんて遠回しな断りの言葉は……
もう、聞きたくないぞ。
結局、俺は少年時代から、せっせと……
他人の恋愛の世話ばかりして来たのだ。
しかし!
『愛の伝道師』と呼ばれる俺も、いい加減に目が覚めた(自虐笑い)。
いくら「人の世話が嫌いではない」といっても限度がある。
気が付けば……俺はず~っと彼女なし、ひとりきりの恋愛ボッチ。
ヴァレンタインもクリスマスも、おひとりさま。
……そういえば、淡い恋の想い出がある。
今から考えれば、多分それが俺の初恋なのだろう。
幼稚園の頃、近所に住む可愛い同年齢の女の子が居た。
俺はその子が好きで、良くふたりで遊んでいた。
せがまれて、おままごとをして……
同性の友達によくからわかれたけど、全然平気だった。
でも、その子が引っ越して、初恋は呆気なく終わった……
離れ離れになり、寂しくて、悔しかった事を憶えている……
そもそも俺は、恋愛がメンドクサイなんて考えてない。
だから、毎晩、神様にお願いする。
願いを叶えてくれるなら、どんな神様でも良い!
そろそろ愛する彼女が欲しい。
真剣に結婚を前提にした、お付き合いが出来る彼女が欲しい。
だが、人間は、現状のまま流されやすい。
俺だって、そう。
自己啓発本に書いてあるみたいに、いきなりは変わったりも出来ないし。
相変わらず……
合コンでは、人のお世話ばかりである。
周りの奴等も、俺の利用価値を良く知っている。
俺を参加させれば、座持ちが良くて盛り上がるし、結果的に縁起も良い。
だから、「ここぞ!」とばかりに頼んで来る。
その上、しっかり……割り勘だ。
ああ、やめてくれ!
もう、他人の世話はNGと言いたい。
俺だって、そろそろ幸せになりたい。
一見、にこやかに振る舞う俺だが、陰では悩みに悩んでいたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そんな、ある日の事……
学生時代から始まった、それは節目といえる、
記念すべき俺の人生通算100回目の合コン。
気合を入れて臨んだが、言うは易く行うは難し。
結局、いつものように人の世話ばっかり焼いていた。
そんな俺を見かねたのか……
ひとりの女の子が声をかけてくれた。
優しく、声をかけてくれたのだ。
彼女の、鈴を転がすような美声にハッとした。
声に釣られてつい彼女を見やれば、素敵な笑顔に引き込まれてしまった。
凄く可愛い!
笑うと目がうんと細くなり、更に垂れ目となる。
屈託のない笑顔を見れば心がじんわり温かくなる、いわゆる癒し系女子だ。
肩まで伸ばした、綺麗なサラサラ黒髪が目立つ。
そして……
俺は極度のおっぱい星人なので、
「ふわん」と大きい胸にもつい目が行ってしまった。
そう、名前は敢えて言わないが、彼女は某人気アイドルにそっくり。
でも何故か、初対面とは思えない。
何となく、そんな気がした……
合コンの際って、最初に名前だけは告げる。
だが俺達は改めて、自己紹介をし合った。
俺が先に名乗り、彼女も名乗った、
気になる名前は……相坂リン。
ええっと……
リンって名前にも、何となく聞き覚えがある。
でも……
はっきりとは思い出せない。
俺が考え込んでいると、
更に詳しいプロフをリンちゃんは教えてくれた。
彼女は3つ先の駅前にある大学病院で、看護師をしているそうだ。
勤務が普段、とっても不規則なので、滅多に合コンには参加しない。
だが、今日はたまたま休日でスケジュール調整が出来たという。
リンちゃんは、以前から俺の事を、友人の噂で聞いていたらしい。
他人の『縁結び』ばかりしている奇特な男子が居ると。
そんな理由を聞けば、
話しかけてくれたのは、単なる興味本位なのに間違いはないだろう。
だが、リンちゃんは俺の話をいろいろ聞いてくれた。
病人をケアする、看護師という職業柄かもしれない。
でも聞き上手と言うか、いつもは聞き役が多い俺にとって凄く新鮮だった。
リンちゃんが話す柔らかい言葉の端々に気配りは勿論、優しさと落ち着きが随所に感じさせられる。
自然と、話が弾んだ。
会話が途切れても、見つめ合うだけでお互いに微笑んでしまう。
ああ!
もう駄目だ。
俺はすっかりリンちゃんが気に入った。
なので、いつもより断然気合を入れた。
この大チャンスを逃してなるものかと
凄く頑張った。
自分で言うのも何だが、生まれて初めて死ぬ思いで頑張った。
そして、一生懸命リンちゃんを口説いた結果が出た。
何と!
幸運にも明日、ふたりきりで会う約束を取り付ける事が出来たのだ。
いわゆる即デートである。
うん!
今回に限って、奇跡的に俺はついていた。
普段は超が付く忙しさのリンちゃんなのに、今日は休み。
お陰で俺は、彼女と出会う事が出来た。
加えて、リンちゃんは明日もたまたま代休を取っていた。
本当は、激務に疲れた身体をゆっくり休めたいだろうに……
初対面の俺の為、わざわざ貴重な時間を割いてくれるなんて大感謝だ。
この子は違う!
いつもとは違う!
確かな手ごたえがある!
運命の出会い、そんな予感がする。
そんなこんなで……
素敵な出会いの予感を胸に俺はうきうき気分で帰宅した。
今夜は寒い。
寒波襲来だとテレビでは言っていた。
フローリング仕様の床が、殊更《ことさら》冷たく感じる。
しかし、部屋の真ん中に座った俺は、とんでもなく元気一杯だ。
遂に俺にも遅い春が訪れた!
とばかりに、力強く拳を突き上げてしまう。
おっと!
明日はリンちゃんとの初デート。
しっかり予習をしておこう。
……1時間が経った。
うんうん。
『調べ物』もバッチリ。
ノートPCを「ぱこん」と閉める。
これで……準備は万全だろう。
「ようし、よしっ! 今度こそ! 特にクリスマスは絶対に、可愛い彼女と過ごす! あの子と楽しく、素敵な夜を過ごすんだっ!」
笑いが止まらない俺は、今度は立ち上がって踊り始める。
心の底から吹き上がる、わくわく感が止まらない。
事情を知らない人が、傍から見たら、凄く変な奴だと思うだろう。
そして、「お前は何がそんなに楽しいのか?」
と、必ず聞いて来るだろう。
でも!
踊りたくなるのも分かって欲しい。
何故なら、俺の居る世界が一気に薔薇色《ばらいろ》に染まったから。
はやる気持ちを抑え、神様へ、
「素敵な出会いをありがとう」と言ってしまった。
そして……安らかな気持ちでその日は素直に寝たのである。