私のご主人様~ifストーリー~
平沢さんは視線をそらした季龍さんに舌打ちして、背を向けてしまう。
季龍さんもまた、平沢さんに殴られた跡を乱暴に拭い、立ち上がった。
「琴音」
季龍さんに駆け寄ろうとする前に、平沢さんに呼ばれて顔を向けると何かが飛んでくる。
受け取ったそれはメモを挟んだボールペンだ。
「お前の選択をそこに書け。夕飯までに決めろよ」
「はい」
平沢さんは今度こそ屋敷の奥へ戻っていく。
メモはまっさらで、何も変哲もない白い紙だった。
なんとなく、お迎えをしてもらうような雰囲気ではなくて、顔を出してくれた人たちもポツポツと部屋に引っ込んでいく。
いつの間にか自分で立ち上がった季龍さんは、視線も合わないまま先に部屋に戻っていった。
「ここちゃん、これだけは言っとくね」
くつを脱ぎながら信洋さんは口を開く。視線は合わなかった。