私のご主人様~ifストーリー~
平沢さんは片膝を付いて立ち上がると、背後にあった棚の戸を開けて何かを探し始める。
「琴音、“この道”は季龍と共に歩めるとは限らねぇってことは分かってるのか?」
「承知の上です」
「…ならいい」
平沢さんは戸棚から取り出した何かを私の前に置く。
大きな徳利。狸の信楽焼が持っているような、おおきなもの。明らかに年代物のそれは、その価値をはかりし得ない。
そんなものを突きつけられて思い浮かんだのは、契約だった。
それは裏社会によって、どんな契約書よりも重いもの。
「意味が分かるか?」
「はい」
季龍さんから聞いた。
源之助さんと交わした、親子の契り。
平沢さんは徳利の栓を抜き、お猪口に注ぐ。注がれたそれを受けとった。