私のご主人様~ifストーリー~
「琴音」
「…ううん、大丈夫」
季龍さんの手を握る。
こんな間際で気付くなんて、本当に私はおバカだ。
…せめて、せめて、源之助さんに自分の言葉で伝えたかった。
後悔のままで、終わらないように。
背負っていこう。
私は“家族”を捨てた。
私の“家族”は別れた。
これからの私は、共に行く“家族”を守ろう。
前を向く。
車のライトが眩しくて、まるで向かう先は白く塗りつぶされた世界のよう。
季龍さんの手に、手を重ねる。
屋敷の敷居を跨ぐ。すぐに振り返り、自然と頭を下げた。季龍さんも、多分平沢さんをはじめとしたみなさんも、無言で頭を下げているのが何となくわかる。
頭を上げ、季龍さんが戸に手をかける。
カラカラと音を立てながら閉まっていく。もう、ここでおかえりと言われることはもう二度とない。
「さようなら」
ピシャリと音をたてて戸は閉まった。