求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
「もちろん。私も結衣って呼んで貰った方が嬉しい。水島さんより親しみを感じるから」
「よかった。結衣は俺のことを以前なんて呼んでたの?」
遥人はとても自然に“結衣”と呼ぶ。
「私は今と変わらない。才賀君って」
「ずいぶん他人行儀だな。気持ちを伝えあったはずなのにどうして?」
「それは以前も言ったけど、私たち恋人だった訳じゃないから。告白したけどそこに至る前に終わったというか……」
浮かれていた頭が急にすっと冷えた気がした。
(考えてみれば、今だって立場がはっきりしない)
彼は結衣との関係をどうするつもりなんだろう。
お互い二十七歳。普通なら将来を見据えた付き合いになるはずだ。
けれど遥人は、連城地所の御曹司で、平凡なサラリーマン家庭で育った結衣と結婚なんて考えていないかもしれない。
(どうしよう……)
こうやって遥人と過ごせて嬉しい。何も考えないで幸せに浸っていたい。
でも、また何か不測の事態が起きないとは限らないのだから、曖昧なままにしてはいけない。はっきりさせるべきだ。
「どうした?」
突然暗くなった結衣に気付いた遥人が、顔を覗き込んで来る。
「以前にもこうやって気持ちを伝えあって、駄目になったから不安になっちゃって……周りから見たら私達の関係は沢山いる同僚のうちの一人にすぎないから。才賀君が事故に遭っても私には何の知らせもなかったんだ」