求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
遥人の心配そうな視線を感じる。
しばらく黙ったまま心を落ち着かせていた結衣は、とにかく疑問を解きたいと遥人に向きなおった。
「彼女と別れたって言ってたけど、付き合っていたときの記憶がないのが原因?」
遥人は頷く。先ほどまで近かった距離が今は少し開いている。
「病院に来た彼女に、覚えていないことを正直に伝えた。それでもいいと言われたから、はじめは別れる気はなかった。好きだという気持ちは無く責任感からだった」
「責任感……好きな気持ちを忘れたからって一方的に別れるのは悪いと思ったから?」
「ああ。でもそんな気持ちで続けても彼女にとっても失礼だと気が付いて別れを切り出したんだ」
「彼女はそれで納得したの?」
「納得していたとは言えない。でも、どうしても続けられなかった」
そう言う遥人の表情は、罪悪感を抱いているのか気まずそうだった。
「今はもう会ってない?」
「別れを切り出したあと、謝罪の為に彼女の家に行った。それ以降は会ってない」
(私、酷いことを思ってる)
彼が彼女と別れて良かったと、思ってしまっている。
忘れられてしまった彼女に同情を覚えながらも、ほっとしているのだ。
共有していた思い出や、過ごした時間を忘れられる辛さを分かっているのに。
自己嫌悪に目を伏せると、遥人が緊張した声音で言う。