求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
唯一の女性建築士、瀬口梓(せぐちあずさ)からアシスタント宛てにクレームのメールが来ていたのだ。
【アシスタント各位
毎回依頼メールの返信が遅いです、期限ギリギリの対応では困ります
瀬口梓】
建築デザイン部には結衣を含め、アシスタントが三名いる。
その三人で建築士十人と、課長以上の役職者五人のフォローをしている。ただひとりは役職者専任のため、実質ふたりで十人の建築士をフォローしている。
慣れているとはいえ毎日忙しい。
だからこそ優先度をつけて仕事を進めるのだけれど、彼女としては不満なのだろう。
(まあ、その通りなんだけど)
理想としては納期より早めに仕上げ不測の事態に備えるべきだ。でも現実はそうもいかない。
体は一つしかないのだから。
だけどアシスタントのそんな事情を汲んでくれない人が何人かいて、ときどきこのように不満を持たれてしまう。
少し憂鬱になって小さな溜息を吐くと、隣の席から苛立った声がした。
「瀬口さん、また文句言って来てる」
結衣と同じ建築士担当のアシスタント、皆川まどかだ。
中途入社の為結衣より入社時期は後だけれど、同じ年で気が合う為、プライベートでも仲良くしている。
「無理な依頼ばっかりする方が問題だと思うけど!」
「ちょっと、声が大きいよ」
瀬口さんに聞こえちゃったらどうするの? と目で訴える。
まどかは、不満そうに眉をひそめた。
「聞こえるように言ったんだよ。毎回短納期の依頼ばっかりで、こっちからクレーム出したいくらいなのに」
まどかは要領が良く仕事もよく出来るが、ちょっと気が短い。
しかも恐れず自己主張をしっかりするタイプなので、一緒にいてはらはらすることが多い。