求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
9 かたをつける 遥人side
遠ざかっていく結衣の後ろ姿を見送った遥人は、溜息を吐いた。
「瀬口さん、こっちに来て」
道の真ん中にいつまでもいる訳にはいかないので、路地に連れて行く。
少し強い言葉を投げかけたせいか、彼女のヒステリーは治まって来ているようだ。
結衣に理不尽な攻撃をした梓に、内心強い苛立ちを覚えていた。
しかし冷静さを心がけ、改めて問う。
「瀬口さん、まずはどうしてここに? 現場帰りじゃこの道は通らないと思うけど」
結衣がいたから追及しなかったが、ここに梓がいること事体が不自然なのだ。
「……現場で嫌なことが有って、少し気分転換してから帰社しようと思ったんです。向こうに気に入ってるカフェがあって。一休みして出たら才賀さんと水島さんが居たから驚きました」
つまりはサボっていたということか。結衣に楽なポジションと言ったくせに、自分も息抜きをしているじゃないか。
呆れたものの彼女を責める気はなかった。外回りの中、休憩するなんて他の社員もしていることだ。ただ彼女のように会社近くでサボるのは少数派だろうが。
「その“嫌なこと”の相談があった?」
「はい」
「でも俺が仕事帰りだと、見て分かったはずだけど?」
突き放されているように聞こえたのだろうか。梓の顔に動揺が浮かぶ。
「でも、いつも仕事の後でも相談に乗ってくれてましたよね?」
「丁度いい機会だからはっきり言っておく。こっちの都合も考えずに深夜にまで連絡してくる瀬口さんのことを負担に感じてたよ。ただ頑張っているのは伝わって来たから無下には出来なかった。それでも限界はある」
梓は目を見開く。余程ショックなのか、唇がわなわなと震えている。