求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~

梓はすっかり気力を失ったように茫然としている。遥人は少しの間を置いてから続けた。

「そうならないようにこれからは相手の気持ちを考えて欲しい。瀬口さんは優秀で才能があるんだから、誰かと比べるより自分の仕事に集中した方がずっといい。努力してる人には皆が協力する。俺も仕事中は力になるつもりだから」

梓の口元が歪む。無理をして笑おうとしているようだった。

「褒められているんですかね……いろいろとショックで素直に嬉しいとは思えないけど」

「褒めているし、瀬口さんの技術は認めているよ」

「ありがとうございます。あくまで仕事中だったら相談にのってくれるんですね」

「そこは臨機応変に。少し気を付ければ分るだろうから」

こんなことを社会人である彼女に説明するのはおかしな気もした。

仕事の覚えもよく結果も出している梓が、なぜこんなにもアンバランスなのだろうと以前から不思議だったが、揉めるのを避けて触れずに来ていた。

今回も結衣が絡まなければ適当に対応していたかもしれない。梓も傷つかなかったはずだ。
けれど……。

「かなりキツイことを言ったけど、謝らないよ。これから一緒に働いていく上で必要な話だったと思うから」

「はい」

「それじゃあ俺はもう行くけど、瀬口さんは大丈夫?」

「はい。まっすぐ会社に戻ります。問題については週明けに相談させて下さい」

梓はなんとか気持ちを切り替えたのか、しっかりと遥人を見つめた。

「分かった」

「……考えてみれば週明けでもいいんですよね。顧客だって週末は休みなのだから。私は焦り過ぎていたのかもしれません」

梓はそう呟くと踵を返し、オフィスビルの方へ向かって行った。
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