求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
新人時代を思い出す。新入社員の全体教育を終え遥人と一緒に建築デザイン部に配属されたけれど、別の指導員を宛がわれ、それ以降まったく関わることが無かったのだ。
同期だからと仲良く私語を交わすのも憚られる雰囲気だったし、梓と菅原のように、飲み会の幹事を一緒に担当する機会もなかった。
仲良くしたら駄目だと言われた訳ではないけれど、あえて近づく用もなかった。きっと遥人も同じような状況だったのだろう。
仕事の関係で話すようになってからは、親しくなるまであっという間だった気がする。
頻繁に休憩を一緒に取ったり。
でもその頃の結衣は、無意識に恋心を押さえていたから、今よりも屈託なく話すことが出来た。
(楽しかったな)
ただ話すだけで笑顔になれた。もしあの頃遥人に婚約者がいると聞いたら、驚きはしたけれどショックは受けなかったと思う。
ああ、そうなんだ。彼ならそういった相手がいて当然だなと、すとんと納得したはずだ。
(私、いつの間にか本当に欲深くなってるよね)
彼の一番になりたい。そう思ってしまったから、今更同僚にも友達にも戻れない。
(でも、もし記憶が戻ったら……)
遥人は今は結衣が大切だと言ってくれているけれど、昔一番の存在だった日奈子と比べたら選んで貰えるか分からない。
彼の気持ちの大きさなんて見えないのだから。遥人にとって結衣と日奈子、どちらが大切なのか知る術がない。
でも少なくとも家族の同意がある点で結婚相手として日奈子の方が有利だ。
(ああ……いやだ!)
気付けばうじうじと同じことばかり考えている。
やめたいのにやめられない。
だけど……ふと疑問が浮かんだ。