求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
「二次会は菅原に任せて、俺と結衣はふたりで飲み直す予定でいたんだ」
「えっ! うそ、まさか予約してたの?」
今日という日にふらりと入れる店は少ない。
「まあね。でもキャンセルしたから心配しないで」
「そんな……教えてくれたらよかったのに」
「体調が悪そうな結衣を連れて行けない」
結衣はがっかりと項垂れた。
「才賀君が気を遣ってくれたのは嬉しいけど……でも行きたかったな」
イベントに拘る方ではないけれど、それでもクリスマスは特別感がある。
(今日、北桜さんが訪ねて来なかったら。何も知らないでいられたら良かったのに)
胃痛は起きなかったし、今頃遥人とふたりきりで幸せを感じていたはずだ。
「結衣、あのさ……」
遥人が珍しく言い辛そうな声を出した。
彼の整った横顔を見上げながら続きを待つ。
「これから結衣の部屋に寄ってもいいか?」
遥人の声は緊張を含んでいたけれど、結衣はそれ以上に体を固くした。
(部屋にって……泊まるってこと?)
彼はそういう心つもりだったのだろうか。
急ぎ部屋の状態を思い出す。朝急いで家を出た為、少し散らかっている。でも彼を招けない程ではない。
いやたとえ散らかっていても、断る選択肢はない。
(才賀君を、私からは絶対離したくない)
だって好きだから。気の毒な立場の婚約者がいたのを知っても身を引けない程好きなのだ。
「うん。大丈夫」
繋いだ遥人の手にきゅっと力を籠める。彼は嬉しそうに「ありがとう」と応えてくれた。