求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~

北桜家を出た遥人は、スーツのポケットからスマートフォンを取り出した。

早く結衣に連絡したい。きっと今日の話合いの結果を気にして待っているはずだ。

日奈子との決着をすぐにも付けたくて北桜家に来たので、かなり時間がかかってしまっていた。

急く気持ちを抑えながら、スマートフォンの画面をスワイプする。その時甲高い子供の声が辺りに響いた。続く泣き声。

遥人の手からスマートフォンが落ちていく。なぜか心拍数が激しくなり、視界がぐらぐらと揺れ始めた。

その場に片膝をつく形で座り込む。何事だと泣き声の方を見遣れば、幼い子供数人が喧嘩でもしたのか顔を赤くして泣いているところだった。

これといって珍しくない光景。それなのに遥人の動悸はますます激しくなっていく。

(なんだ……これは)

混乱しそうになる中、『才賀君?』と遥人の好きな声が耳に届いた。

『才賀君? どうしたの?』

地面に落ちたスマートフォンからだった。手を伸ばし拾上げる。

『才賀君、聞こえてる? 大丈夫?』

柔らかな声に、焦りが滲む。遥人を心配している様子が目に浮かんだ。

「結衣……大丈夫だから」

答えるとほっとした吐息が聞こえた。

『良かった……でも何か有ったの?』

「ごめん、手が滑ってスマホを落としたんだ」

『あ、そうなんだ。壊れていないみたいで良かったね』

「ああ」

優しい声が心に染み入り、胸に熱いものがこみ上げて来た。
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