求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
一時間が過ぎた。彼からは音沙汰なし。結衣から電話をしても繋がらない。
そのうち、呼び出し音すら鳴らなくなった。
(どうして? まさか事故?)
不安になって近場の交通事故情報を検索するが何も出て来ない。
(どうしよう……才賀君大丈夫なの?)
心配で何度もメッセージを送り続ける。
家に行こうかとも考えた。だけど彼の家がどこか分からない。
セキュリティの関係で社員の住所録なんてものはないし、個人的にも聞いていなかったから。
同期の高野か誰かに聞こうかとも考えたが、そうすれば遥人との関係を気付かれるかもしれない。
なかなか踏み切れなかった。
迷う間にも時間は過ぎて行く。不安はどんどん大きくなる。
(もしかして、わざと連絡を絶っているの?)
ふとそんな考えが過ぎる。
注意力のある彼が、交通事故を起こしたりスマートフォンを無くす可能性より余程高いと思うのだ。
(どうして……楽しみにしてるって言ってたのに)
いやでも彼はそんな人じゃない。
伝えてくれた言葉が嘘だったなんて、どうしても信じられない。
けれど、今彼が結衣の呼びかけに応えないのは事実。
遥人の心境にどんな変化が有ったのだろう。
待っているのも限界で、高野に連絡をした。しかし彼は意外にも遥人の自宅を知らなかった。
『あいつ実家暮らしだから行ったことない。住所も知らないけど、何か有ったのか?』
『ううん、何でもないんだ……ちょっと、急いで貸して欲しいものが有ったから』
『そうなのか? 俺が持ってるものなら貸すけどなに?』
『ええと……本なの。だから大丈夫』
いろいろと追及して来そうな高野との会話を無理やり終えて、結衣はベッドに突っ伏した。
(才賀君……どこにいるの? 何をしているの?)
こんな風に音信不通になるなんて思いもしなかった。
(お願い。才賀君連絡をして)
何度も願ったが叶わない。
期待していた週末を、結衣はどん底の気持ちで過ごすことになった。