求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
「……信じられません。そんな話聞いたこともありませんでしたし」
「立場を公表していないのはいくつか理由があるみたいだが、素性を知らない方が周りはやりやすいよな。分かってたらどうしても遠慮するだろうし」
「でもどうしてグループ本社ではなくうちの会社に?」
会長の孫ならグループ本社勤務が自然ではないのだろうか。
「それは意匠デザインの仕事に就きたかったからだろ? 迷わずうちの会社を選んだって言ってたからな」
「あ……そうですよね」
仕事に打ち込む遥人の姿が思い浮かんだ。
ときには真剣な表情で飲食も忘れてしまう程のめり込んでいた。見かねて飲み物を差し入れたことが何度かある。
彼の集中力と熱意を尊敬していた。そんな姿を見ていると自分も頑張らなくてはと、意欲が湧いて来た。
「まあそんな事情であいつの家は普通とは違うんだ。つまりは急な長期休暇のうえ面会謝絶って言われてもしつこく追及は出来ない」
「ご家族の方からはどのような説明を?」
「とりあえず一月病欠扱いだ。さっきも言ったが怪我は大したことはないそうだ。しかし頭を打ったせいで、記憶が不安定になってるらしい」
結衣は大きく目を見開いた。
「まさか記憶喪失なんですか?」
実際身近でそういう体験をした人はいないけれど、事故などの後記憶がなくなる場合があると聞いたことがある。
(まさか、才賀君が? そんな……)