求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
「自分の名前も職業も分かっていて会話も普通に出来る。ただ一部分からないことがあるからもう少し検査が必要だそうだ」
「……そうなんですね」
想像していた記憶喪失のような、自分が誰かも分からない状態ではないらしい。
心配する気持ちは消えないものの、幾分ほっとした。
「仕事についても忘れているところがあるかもしれない。その辺については出社してから確認して問題ないと分かったら通常業務に戻って貰うつもりだが……そこで水島に頼みがある」
「はい」
ようやく本題が語られるのだと察し結衣は居住まいを正した。
「才賀が出社してから完全に仕事に復帰出来るまでフォローをしてくれ」
「はい。具体的にはどのようなことをすればいいですか?」
アシスタントとして彼の仕事のサポートはしているが、今言われているのはそれとは違うものだろう。
「記憶に問題があることは他の社員には伏せておく。だから水島は周りに不審に思われないよう、あいつの仕事を助けてやってくれ」
「部内のみんなに秘密にするんですか? でも……話して協力をお願いした方がいいと思いますけど」
事故に遭いダメージを受けた同僚のフォローを嫌がる人なんていない。
みんなで協力した方が、彼も心強いと思う。
けれど、白川は首を横に振った。
「駄目だ、才賀の家族が公表を許さない。本当は水島にも秘密にしろと言われたんだが、俺ひとりではフォローしきれないと言って認めて貰ったくらいなんだ。水島は才賀と同期だし、アシスタントとして仕事にも深く関わっているから適任だからな」
「どうして……」
遥人の家族はなぜ隠そうとするのだろう。
「いいか。念を押しておくがこの話は絶対に誰にも話すなよ。才賀の出社日が決まったら伝えるから、協力を頼む」
「もちろん精一杯協力はします、許可が出るまでは口外しません。でも出社の前にお見舞いに行きたいです。なんとかお願いして貰えませんか?」
白川から聞いた話は結衣にとってショックなものだった。遥人との距離が一気に広がったようで、苦しさを覚える。
だけどそれ以上に彼が心配だった。怪我も記憶の問題も酷いものではないとはいえ、自分の目で見て確認したい。