求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
そんな風に過ごし長かった一月が経った十月二週目の月曜日。再び朝一番に白川に声をかけられ、彼の後をついて役員室近くの応接室に向かった。

足早に進む白川に追いつき、小声で問う。

「白川課長、才賀君の件ですか?」

「そうだ。今来てる」

「え?」

思わず立ち止まると白川も足を止め、目線で急ぐように促す。

「すみません……急だから驚いてしまって」

「俺も連絡受けたのが昨日だったんだ。今日から復帰するって。用意は出来ているか?」

「はい。欠勤は一ヶ月程度と聞いていたので、準備はできています」

彼が困らないように、これまで手掛けた仕事の概要をまとめ、途中だった案件についても進捗状況など分かりやすくデータにしてある。

「さすが。助かるよ」

白川はあるドアの前で立ち止まった。結衣は使用したことのない役員用応接室のうちの一つだ。

彼が軽くノックをすると中から「はい」と女性の声が返って来た。

「白川です」

「お入りください」

許可を得た白川がドアを開く。結衣はごくりと息を呑んだ。

遥人と一月ぶりに再会するのだと思うと、怖い程の緊張がこみ上げて来た。

聞きたいことは山ほどある。

これまでの経緯を教えてもらいたいし、記憶の方はどうなっているのかも知りたい。

(でも一番知りたいのは才賀君が私をどう思っているのか)

あの時と同じ気持ちで居てくれているのか。

(まだ好きでいてくれている?)

ずっと不安を抱えて過ごしていた。
彼に伝えたい想いもある。

だけど周りに人がいるからあくまで同僚として振舞わなくてはならい。
< 43 / 256 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop