求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
彼は一見ひと月前と変わったようには見えなかった。
今着ている細身のネイビーのスーツも結衣の知っているものだ。
目立つ所に怪我の跡もない。
彼は真っすぐ結衣を見つめていた。視線が重なった瞬間、胸がぎゅっと掴まれたように苦しくなる。
様々な感情がこみ上げて、上手く言葉が出て来ない。
顔を強張らせる結衣とは違い、遥人は懐かしそうに目を細めた。
結衣が好きな穏やかで優しい眼差し。
(才賀君……)
ああ、彼は変わっていなかった。根拠はないけどそんな風に感じる。
グループ本社の秘書を伴い、一般社員が使用する応接室では見ない豪華なソファーに違和感なく座っている。その姿に距離を感じたけれど、本質は変わっていなかった。
ほっとして肩の力を抜いた瞬間、遥人が口を開いた。
「白川課長、長く休み申し訳ありませんでした」
「事故だったんだから謝る必要はない。それより体はもういいのか?」
白川の態度は今までと変わらず、今後も遥人の扱いを変える気がないのだと分かる。