求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
「体の方は全く問題ないです。忘れている点が多くあると思いますが、一亥も早く取り戻すようにします」

「ああ、でも無理はするなよ。何かあったらすぐに俺か水島を頼っていいから」

「はい。水島さんも迷惑をかけて申し訳ない」

「え……」

結衣は目を瞬いた。何だか違和感を覚えたのだ。その正体は分からないのだけれど、嫌な感じがする。

「あ、あの……忘れている点が多くあると言っていたけど、具体的にはどの程度なんですか?」

結衣の質問に、遥人は顔を曇らせる。代わりに彼の隣の席に居た秘書室長が発言した。

「遥人さんの場合生活と仕事に必要な知識は問題ありません。ただここ半年の記憶がありません」

結衣はひゅっと息を呑んだ。

「……半年?」

まさか……そんなことがあるはずない。

恐る恐る遥人の顔を見つめる。違和感の正体が分かった。

優しく穏やかな眼差し。だけどそこには結衣に対する感情が一切ないのだ。

最後に会話をしたとき、確かにあった結衣への好意を見つけられない。

(半年の記憶がない……その頃の彼は……)

どんな風に結衣を見ていただろう。何を話した?

それ程昔の事ではないのに、思い出せない。

けれど、今の彼が結衣に対して特別な気持ちを持っていないのは間違いないと思った。
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