求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
「俺のせいで時間が押してるんだな」

目を遣ると遥人が困ったように眉を下げている。先ほど皆の前で堂々と挨拶をした姿と対照的だった。

「気にしなくて大丈夫だよ。白川課長は才賀君の復帰を待っていたんだから、喜んでいると思うよ」

「そうだといいけど、今回本当に迷惑かけたから早く挽回しないとな」

そう呟く彼が苦悩しているように見え、結衣ははっとした。

平然と見えた遥人も実は思い悩んでいるのかもしれないと気がついたのだ。

(そうだよ。不安でない訳がない。長く仕事を休むだけでも心配なのに、記憶までないんだから)

自分だったら取り繕うことさえ出来ないだろう。

ふたりの関係が逆戻りしてしまったと落ち込んでいたけれど、今は自分の辛さに浸るよりも遥人を支えなくては。

使命感と共に力が湧いて来る。

「才賀君なら直ぐに取り戻せるよ。私も協力するから頑張ろう」

務めて明るく言い、ふと思い立ち窓際のブラインドを上げた。

日の光が入り込み部屋が明るくなる。遥人の気分も晴れたらいいと思った。

「才賀君、適当に座っていて。私、ノートパソコンと資料持って来るから」

遥人の不安を取り除くのはやはり仕事を正常化するのが一番だ。

必要な情報をインプットしてから以前のような仕事のスタイルに戻れば、気持ちも安定してくるだろうし、忙しくて悩んでいる暇もなくなりそうだ。
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