求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
夕方、ある程度自分の仕事を片付けてから、会議室に向かった。
遥人はノートパソコンの画面を真剣な目で見ていたけれど、結衣に気付き表情を和らげた。
「才賀君、久しぶりの仕事で疲れてない? 良かったらこれどうぞ」
彼のノートパソコンから少し離れた位置にカップを置く。
ビル一階に入っている遥人が好きなコーヒーショップで買って来たものだ。
彼は少し驚いた様子だったけれど、笑顔を浮かべた。
「……ありがとう」
「ブラックで大丈夫だよね」
「そう。よく知ってるね」
「うん。残業中に一緒に買いに行ったことが有ったから」
本当はしょっちゅう二人で息抜きに行っていた。残業中は軽食にパンを買うときもあった。彼はチキンとチーズのサンドイッチで、結衣はフルーツサンドが定番だった。
(いつも才賀君が誘ってくれてたんだよね)
嬉しくて、彼との休憩を楽しみにしていたものだ。
(もうあんな風に過ごせないんだ……)
つい感傷に浸りそうになっていると、遥人にじっと見られているのに気が付いた。
「どうかした?」
「いや……」
何か言いたそうにしながらも遥人は結衣から視線を逸らし、カップを口に運んだので沈黙が訪れる。
「あの……資料はどうだった? 他にも必要なものが有ったら言ってね」
「大丈夫。すごく親切に出来た資料で、忘れている期間の状況が時系列で確認出来てる。これは水島さんが作ってくれたんだろ?」
「うん。才賀君が事故に遭ったすぐ後に白川課長から事情を聞いたから、少しずつ作っておいたの」