求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
3 変化と違和感 遥人side

久しぶりに出社したせいか、酷く疲れていた。

才賀遥人は自宅に帰り自室に入ると、力尽きてソファーに座り込んだ。

「やっぱ、体が鈍ってるな」

溜息混じりに呟く。


今から一ヶ月前。運転中に事故を起こした。

土曜日の午前中に市街地を運転していたところ、対向車がセンターラインを超えて遥人の車に激突して来たのだ。

飛び出して来た子供を避けたことによる避けようのない事故だったが、不幸中の幸いで、子供に怪我はなかったらしい。

しかし遥人と対向車の運転手は結構なダメージを受け、救急車で運ばれた。と病院で目覚めたときに説明を受けたが、全くぴんと来なかった。

確かに怪我はしているようで体が酷く痛んだが、事故に遭った記憶が一切ない。

頭を打ったため、一時的に記憶があやふやになっているのかもしれないと検査をしたが結果は衝撃的だった。

【記憶喪失】

耳慣れない言葉ではないが、信じられなかった。
まさか自分の身に降りかかるとは……考えたこともないような状況に気付けば陥っていたのだ。

それからしばらくは気分が塞ぐ日が続いた。今までのように働いていけるのか。何か大事なことを忘れているのではないかという不安。

ただ忘れているのはここ半年程度の記憶のようで、その期間の短さに段々と諦めがついていった。

怪我の方はそれ程酷くもなく半月程度で退院出来たし、自宅に戻っても特に困ることはない。

いくつか疑問点は有ったがそれを追及するよりも、早く生活を取り戻そうと前向きな気持ちになっていた。
< 59 / 256 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop