求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
梓よりも更に問題なのが、北桜日奈子(きたざくら ひなこ)だった。
彼女は遥人の元婚約者だ。と言っても恋愛関係ではなく、親が勝手に決めた縁談だ。
三歳年下で正当派の美人。育ちの良さがにじみ出る上品な物腰の女性だった。
出会いが見合いでも頭ごなしに拒否するつもりはなかった。これも一つの縁だと考え何度か会った。しかし女性として好きになれなかった。
それは相手も同じようだったから、性格が合わないのだろう。一年前に日奈子の同意を得て円満に婚約を解消した。
それなのに記憶を失った半年の間に、日奈子と復縁していたというのだから聞いたときは驚愕した。
正直言って信じられなかった。今、日奈子に対して恋愛感情を全く感じられないと言うのに。
しかし一月前、自分は日奈子に会いに行く途中に事故に遭ったのだと言う。
しかも車には旅行にでも行くような荷物まで積んであった。
まさかと思いメッセージを確認したが、事故に遭う三十分程前、遥人から日奈子に『今から行く』と送っていたので真実なのだろう。
それだけではない。
遥人は自室の壁際の机に目を遣り溜息を吐いた。