求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
資料といってもしっかりした一冊の本だった。
外装デザインの参考の為なのか、結衣の好きなヨーロッパの古城や対極にあるようなアジアの最新ビルの写真がいくつも掲載されていた。
美しい写真に真剣に見入っていると遥人が言った。
『気に入ったならあげるよ』
『え? いいよ。才賀君が仕事で使うものでしょ? 私が持っていてもデザインについては分からないし』
『でも結衣はこの写真が好きなんだろ? 俺は大丈夫。内容は全部頭似入っているから』
『これを全部覚えてるって……本当に?』
『そう。だから遠慮なくどうぞ』
あのときは遥人の頭脳に衝撃を受けたものだった。
そして今思い返すと彼の優しさが心に染みる。
(才賀君は私が強く関心を持ったから喜ばそうと冊子をくれたんだよね)
多分あの時はもう結衣に好意を持ってくれていたのだろう。
コーヒーの差し入れだって結衣が疲れているのに気付いたからかもしれない。
(私を見ていてくれたんだ)
いつも彼に助けられて大切にされていた……なんて幸せだったのだろう。
つい思い出に浸っていると、遥人の怪訝そうな声がした。
「俺が水島さんに資料をあげた?」
彼は口には出さないものの納得がいかない様子だった。今の彼だったら結衣に資料を上げたりしないだろう。
寂しく感じながら微笑んだ。