求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
「凄く綺麗な写真が入っていたから才賀君に借りて読んでいたの。そしたらあげるって。家に持って帰っちゃったんだけど、明日必ず持って来るね」
遥人は戸惑いながらも頷いた。
「そんな急がなくてもいいよ。それにごめんな、一度あげたものを返して貰うなんて」
「気にしないで、元々才賀君のものなんだから」
「そうはいってもな……」
不本意そうに眉根を寄せる遥人は、相変わらず素敵だ。
初日はぎこちなかった遥人の態度が、日に日に柔らかくなっている。
ときどき記憶が戻ったのではないかと錯覚するほどに。
きっと、いつも彼に思い出して欲しいと願っているからだ。
けれどふとした拍子に実感する。
残念ながら遥人は少しも思い出していないと。
結衣なりに記憶喪失について調べたけれど、この先二度と思い出さない可能性もあるそうだ。
それに遥人の場合は本人が熱心に思い出そうとしていない。
忘れている期間が短いのでその時の出来事を詳細に調べたり、思い出す努力をするより、これからの仕事を頑張りたいと思っていると本人が言っていた。
そんな風に言われたら、思い出話をするのは悪い気がして他愛ない会話のときも話題に出しづらくなった。
一番辛いのは本人なのだから気持ちを尊重しなくてはいけない。それでもいつか思い出してくれたらと期待する気持ちを消せないまま遥人の側にいる。