求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
復帰して間もない彼にはあまり無理をして欲しくないが、同僚から相談されたら断るような人ではない。

(でも瀬口さんはヒステリックなところがあるから、今の才賀君には辛いかも)

白川に相談してみようか。でも建築士同士のことに口出しするのはおせっかいが過ぎるだろうか。

考え込んでいると、コンコンと強く会議室の扉を叩く音がした。

結衣が扉に視線を向けるのと同時に扉が開いた。

「失礼します」

足早に入って来たのは、今話題にしていた瀬口梓だった。

グレーのパンツスーツ姿で、髪は一つにまとめている。
大きなバッグと図面入れケースを手にしていた。

今日は朝から現場に行っていたはずだから、帰社してそのままここに来たようだ。

梓は結衣をちらりとも見ずに遥人の元に向かう。

「才賀さん、急ぎで相談があります」

彼女は早口で表情は強張っていた。現場で何かトラブルが有ったのかもしれない。

遥人は僅かに眉を顰めてから穏やかな口調で返事をする。

「分かった。水島さんとの打ち合わせが終わったら時間を取るから」

「それ後では駄目ですか? 私の方はクライアントから急ぎだと言われているんです」

結衣との打ち合わせよりも、重要度が高いと言いたいのだと分かった。

遥人が小さな溜息を吐いたのを見て、結衣は素早く席を立った。

「才賀君、私の方はいつでも大丈夫だから後でにしよう。席に戻ってるから都合が良くなったら教えてね」

持ち込んでいたノートパソコンと、資料を集め両手で抱える。

「……ごめん」

遥人は申し訳なさそうに頭を下げる。梓は結衣が座っていた椅子に代わり腰を下ろし、ちらりとも振り返ることは無かった。
< 74 / 256 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop