求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
「才賀さん! ちょっとこれ見て下さい!」
梓の声がフロアに響いた。彼女は自席に座ったままフロア端のキャビネット前に居る遥人を呼んでいる。
遥人は手にしていたファイルをキャビネットに戻し、直ぐに梓の元に向かう。
「どうした?」
「このメールなんですけど、酷いんです……」
大声を張り上げていた梓は急に小声になり、結衣の席までは何を話しているのか聞こえなくなった。
だけどふたりの親密な様子は気配で分る。
(あんなに顔を近づけなくてもいいのに……)
胸中にドロドロしたものが湧いてくるようだった。結衣は無理やり視線をそらしやりかけの仕事に集中する。しかしその仕事も梓に依頼された調べもの。
梓が要求する外壁素材を扱う業者とその価格を一覧にしているのだ。海外まで含むため結構時間がかかる地味な作業だ。だけどきっと結衣が苦労して作ったリストを梓は当然のように受け取り、遥人には自分が調べたかのように報告するのだろう。
(これが私の仕事だけど、分かってるけど……)
今までは梓に寛容でいられたはずなのに、今はどうしても不満がこみ上げる。そんな自分が嫌で落ち込んでいると、隣の席のまどかが棘のある声で話しかけて来た。