求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
けれど沈んだ気分を表すように、足取りは重い。

覚えていないから無神経な行動も仕方がないなんて、思えない。

知ってしまった以上、気にするなというのは無理だ。

結衣に対する恋愛感情は何も覚えていない。けれど彼女を好きになったのだとしても不思議はないと思っている。

会社に復帰して約一カ月。あくまで仕事での交流のなのに、結衣に対して好感を持っていた。

ブランクのせいで上手くいかない仕事で焦りや苛立ちを感じていても、会議室で結衣と過ごしている時は穏やかな気持ちでいられた。

困っていると察して、さり気なく手を差し伸べてくれる。

周りをよく見ている、とても気遣いが出来る人だと思っていた。

もっと接する機会が増えたら、好意が恋愛感情になってもおかしくない、けれど。

周りに分る程態度に出した上に、本人に気持ちを伝えるなんて……その時の自分は何を考えていたのだろう。

(俺は日奈子と付き合っていたんじゃないのか?)

それ自体がどうにも信じがたいことだけれど、事実ではある。
元婚約者の北桜日奈子は慣れた様子で遥人の家に出入りをしているし、家族も自然に受け入れているのだから。恋人と言うより、婚約者の扱いだと言える。

そんな状況なのに、結衣が好きだからといって、なぜ告白をしたのか。

しかも結衣に好意を返して貰いながら、付き合うでもなく曖昧なままにしていたなんて。

我ながら最低の態度だと思う。あまりに不誠実だ。

結衣を好きになったのなら、なぜ日奈子と別れなかったのか。

考えても分からない。当時の自分の行動が一切理解出来ないからだ。
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