求婚蜜夜~エリート御曹司は滾る愛を注ぎたい~
「……とにかく今は無理だから。宝田さん、彼女を案内して貰えるか?」
「はい」
踵を返しその場を立ち去ったものの、背中に日奈子の視線が追って来ているような気がして落ち着かない。
自室に入りようやく体の力が抜けた。
「はあ……」
疲れた溜息を吐きながら鞄を置き、上着を脱ぐ。
どうしようもなく憂鬱な気分だった。
記憶を失ってから今日まで、日奈子の希望には出来る限り沿うようにしていた。
会いたいと言われたら、時間を作って会っていた。
正直負担に感じてはいたけれど、彼女への好意を忘れてしまった後ろめたさがあった。それにすっかり冷めてしまった心を態度に出して傷つけたくなかったからだ。
だけど今夜だけは会いたくなかった。
今この瞬間に感じるのは、素っ気なくしてしまった日奈子に対する申し訳なさではなく、結衣に対する罪悪感だ。
日奈子と会うのも、自宅に泊まらせることも彼女を裏切っているような気持ちになるのだ。
それに今夜は結衣との関係についてひとりで考えたかった。と言っても。
(わざわざ考えなくても、もう答えは出ているんだよな)
日奈子と話すのが憂鬱で、結衣ともっと話したいと願っている時点で明らかだ。