未明の三日月 ~その後

昨日までの美咲なら、
 
『えー。いいよ。詩帆ちゃんいると 落ち着かないし。家でピザでも頼もうよ。』

と言っていたはず。


でも美咲は もう 佳宏の好意を 素直に喜べる。
 

「レストラン、予約しておくね。」

と言って 玄関に向かう佳宏を 詩帆を抱いて 見送る。
 

「詩帆ちゃん、バイバイ。」

と佳宏が言うと 詩帆は、泣きべそで 佳宏に手を伸ばす。


初めて 佳宏の 後を追う詩帆。


美咲は 驚いて 佳宏の顔を見る。

嬉しそうな笑顔の佳宏に、
 


「仕方ない、下まで送るか。」

と言って、美咲は 詩帆を佳宏に抱かせる。
 

「昨日、お風呂 入れてあげたからかな。」
 
「ホテルのレストランが、嬉しいんじゃない。」
 
「まさか。」


エレベーターの中 小声で交わす そんな会話も楽しくて。


佳宏と美咲は 優しく微笑み合った。
 


美咲の心が 変わっただけで、詩帆も変わっていく。


なんて 無駄な時間を 過ごしていたのだろう。


心が繋がれば、みんながこんなに幸せなのに。
 


「詩帆ちゃん。早くお洗濯して、お散歩に行こうね。」


抱いた詩帆に そっと話しかけて 美咲は玄関を開けた。
 
 

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