未明の三日月 ~その後
12

「美咲。二人目、どうする?」

詩帆の誕生日、佳宏は美咲に聞く。


長いようで、早かった一年。



やっと美咲は 3人の生活に 慣れたところなのに。
 

「うーん。難しい問題だ。」


美咲は 茶化しながら 本音を言う。
 


「俺達、年だし。もし、もう一人産むなら 早い方がいいと思うんだ。」


佳宏は 考える顔で 美咲を見る。
 


「佳宏 もう一人 欲しい?」


美咲が聞くと、佳宏は 真っ直ぐ美咲を見て 頷く。
 


「詩帆ちゃん、可愛いし。詩帆ちゃんのためにも 兄弟がいた方がいいと思う。」


美咲も 二人目の子供のことは 考えていた。
 
「でも もう一人産むなら 私、仕事は続けられないと思う。」

美咲は 躊躇いがちに言ってみる。
 


「美咲 仕事 続けたいの?」

佳宏は静かに聞く。
 
「そういう訳じゃないけど。子供は もう一人欲しいけど。今の生活 幸せ過ぎて。変えるのが怖いの。」

美咲は正直に言う。
 


「美咲は臆病だな。もっと幸せになるかもしれないのに。」

佳宏は 心地よく笑う。
 
「そうなんだけど。」

でも美咲は、不安だった。


出産の後の自分が 怖かった。
 

「いつか もう一人欲しいって思った時は 遅いかもしれないでしょう。子供は お金で買えない財産だから。産める時に、産んでおきたいんだ。」
 

佳宏の気持ちは 美咲もよくわかる。


産んでしまえば 生活は 何とかなるだろう。


美咲は 自分が怖いだけだった。



詩帆の時のように 佳宏への思いが 冷えてしまうことが とても怖かった。
 


「そうだよね。それは 私もわかるけど。」


美咲が言うと 佳宏は優しい目で 美咲を見た。
 

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