さよなら虎馬、ハートブレイク
 

「まぁとりあえずそういうことなんで。放課後よろしくお願いしますね」

「えっちょ、オズちゃんお昼一緒に食べないの」

「静かに食べたいんで戻ります」

 そんじゃ、と振り向かないまま手を振って階段を上ると、後ろから「フラれたね」という智也先輩の爽やかな声が聞こえた気がした。











 今朝柚寧ちゃんがスマートフォンの画面で見せてくれたパンケーキ屋さんは、曰く、元々海外発祥のお店らしい。それがつい最近日本に上陸したらしく、テレビでも宣伝されたとかで柚寧ちゃんが言った通り、案の定。

───────ものすごい数の女性客で賑わっていた。


「何このアウェー感半端ねぇ…」


 事前に話を聞いていたとはいえ想像以上、それも店内を占めているお客の大半が十代~二十代の女性客だ。今は夕方ということもあって学校帰りの女子高生が多く、その中にいる先輩は完全に浮いている。

 加えて、この男には尚且つ目を引く原因があるから余計だ。


「…やば、待ってあっちのテーブル超イケメンいるんだけど」

「え、男の子? うわっホントヤバい…! てか隣の子もお人形さんみたいで超可愛くない?」

「彼女かなあ」

「え、じゃあ隣は」

「こけしじゃん?」

「ぶふっ、やめてそれマジツボる」



(…誰がこけしだ)

 聞こえてんぞ。てか市松人形とかなら言われたことあるけどこけしほど目ぇ細くないわ。
 半目になって禍々(まがまが)しいオーラをかもし出す私を遮るように、店員さんがもう事前に注文したメニューをテーブルに運んできてくれた。

 柚寧ちゃんが選んだのは「焦がしカラメルホイップパンケーキのバニラアイス添え」、私が選んだのは、散々考えあぐねた末にお店人気ナンバー1の「プレミアムシフォンパンケーキ」だ。

「んむぅ~っ! おぉいひぃい~っ」

 口の端にホイップを付けたまま身悶える柚寧ちゃんは、右手にフォークとナイフを持ち、空いた左手で頬を抑えている。甲高い声は店内のお客さん数人の視線も集め、店員さんも満面の笑みでこっちの様子を見守っていた。

 私も一足遅れて自分のパンケーキにナイフを通す。シフォン生地が柔らかく、やっとの思いで一口大に切りそれを頬張ると、やさしい甘みについ笑顔がこぼれる。

「凛花ちゃん、一口交換しよっ」

「あ、うん」

「えーいいな、俺にも一口ちょうだい」

「“一口ちょうだい”って言う人は浮気者らしいですよ」

「マジでか」

「なんちゃって。はいっ」


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