さよなら虎馬、ハートブレイク
自分のお皿の上で一口大にカットしたパンケーキ。それをフォークに刺すと、柚寧ちゃんは先輩の口元に近付けて———
彼は、それをごく自然にぱく、と口に含んだ。
(!?)
「あ、美味いねこれ」
「でしょでしょ!? 甘いだけかと思いきや、その中に焦がしカラメルの苦みがあるからしつこくなくて」
「俺正直甘いのそんな得意じゃないんだけど、これだったらいけるかも」
「本当ですか? やったあ♡」
「オズちゃんのはどんなの?」
「…っ…、」
「オズちゃん?」
な、な、なに。なに今の衝撃映像は。
普段ドラマや映画なんかでしか見かけないよくあるカップルの恒例行事(?)「あーん」が、まさか目の前で、しかも柚寧ちゃんと先輩で繰り広げられるとは思わず頭が真っ白になる。
だって、あんなさらっと、あんな、
ぱくり。
ふとそこで、片手に振動。何か嫌な予感がしてぎぎぎ、と目だけを動かすと、パンケーキを刺していた私のフォークに、
先輩がかぶり付いていた。
「うわぁあぁあぁあ?!」
「んー、オズちゃんのはマイルd」
「なん、何やってんだばか!!」
「待っててもやってくんないから自分から迎えに行きました」
「ドヤ顔で言うな!!」
何故かしたり顔で言う先輩に、発狂してフォークで攻撃しようとする私。結局柚寧ちゃんに羽交締めにされて、うっかりすれば出禁になるところをなんとか無事に会計まで済ませるに至ったのだった。
☁︎
「まーだむくれてんの」
パンケーキ屋を出て、帰り道。
このまま帰るのかと思いきや成り行きで通りかかったゲームセンターに寄ることになって、柚寧ちゃんは両替えしてくるね、とお店の奥へ消えてしまった。
UFOキャッチャーを背にローファーで地面を蹴っていた私は、その声に顔を上げる。私がもたれているのと同じボックスに半身を預けていた先輩は、にこと笑った。
「むくれてないし」
「むくれてんじゃん」
「先輩が急に変なことするからでしょ」
「だからそれに関しては謝っただろ?」