さよなら虎馬、ハートブレイク
会話にオチが付いたところで、お店の奥から柚寧ちゃんの声がした。既にゲーセンの奥・プリクラ機の前にいた柚寧ちゃんは、ぴょこぴょこと跳ねながら手招きをしている。
「ねねっ! せっかくだからプリ撮ろう、今日の記念」
「わー…すごい、目がでかい」
「だからこそ盛れるんだよー、メイク具合も変えれたりっ。ここの画面で先にスマホかざしたら無料でもらえる画像の量が増えるから、凛花ちゃんのもスマホ貸してっ」
「あ、うん…あれ?」
言われるがままに学生鞄の外ポケットに手を突っ込み、中を弄る。が、一向に手が目当てのものにぶつからない。あれ。…あれ、おかしいな。同じように他のポケットを弄っても出てこないそれに、いよいよ苛立って鞄の中をぶちまける。
「どぅえっ!? 凛花ちゃん!?」
「あーあーあー…、何やってんのもう」
「スマホが行方不明で」
床に散らばった筆箱、ノートなどを拾い上げてくれる二人をよそに、首をひねる。おかしい。普段ならスマホなんて取り出すことないから必ず外側のポケットに入ってるのに。…今日学校で取り出したっけ。今日…
───“私の連絡先登録しといたよ!”
───“今の儀式で!?”
─────────あ。
「ごめん、スマホ多分学校の机に入れて忘れてきたっぽい」
「えーっ!? それ取りに行った方がいいよ! 一緒に戻る?」
「ううん、時間かかるからまた今度にしよう。今日は夕方から雨降るって言ってたから、降りだす前に二人は先に帰ってて。
柚寧ちゃんありがとう、先輩も」
ぺこ、と軽く会釈すると学生鞄を担ぎ直して走り出す。ゲーセンから飛び出すと天気予報通り、空は雨雲に覆われていて、今にも泣き出しそうだった。
「えっと…これから、どうします?」
凛花の背中を見送ったあと、足元に落ちていた「それ」を拾い上げて固まっている藤堂に柚寧はおず、と声をかける。
「あ、せっかくだからこのまま二人で遊んじゃうとかどうですか? 私正直まだまだ遊び足りないって言うか! 凛花ちゃんはああ言ってたけど、私」
「ごめん」
早口でまくし立てる彼女にサッと見せたもの。藤堂は、凛花のものと思しき生徒手帳を掲げると、目を細めて笑った。
「お姫さまに忘れ物届けなきゃ」