さよなら虎馬、ハートブレイク
第四章
再会
梅雨の晴れ間、夏のグラウンド。
煌々と照りつける太陽の下を全速力でゴール地点まで駆け抜けると、同時にピーッと甲高いホイッスルの音が鳴った。
「ただいまの記録、6秒33」
「小津さん、すごい!」
蒸し暑い。顎を伝う汗を手の甲で拭っていたら突然女子数人が殺到してきた。
「6秒台って、1年の女子の中でも断トツだよ!」
「どーやったらそんな速く走れんの、コツ教えて!!」
「え、えー…わかんない…足はやく動かす」
今は体育の授業で、今月末に控えた体育祭の三学年合同リレーの代表走者を決める50m走測定中だ。
「球技は絶望的だけど走るのは得意ってわけか。やるじゃん」
記録表に目を通しながら歩いてきたのは、体育委員でバスケ部のナツ、こと草薙さん。
頭の後ろで纏められたポニーテールには相変わらず後れ毛一つなく、切れ長の鋭い目線、見た目通りの負けん気の強さに気圧されていたのも、少し前までの話。
球技大会以来、草薙さんも私に少しずつだけど心を開き始めてくれているみたい。
「ってーことは今年の三学合同の1年女子代表は、小津やんに決まりかえ?」
「ミヤビ」
草薙さんの言葉に隣を見る間もなく、がば、と腕が回ってきた。彼女は私と目があうなり八重歯を見せて悪戯っぽく笑う。
草薙さん同様女子バスケ部所属で、ポイントゲッターだと言うミヤビこと黒澤さんは、聞いた話によると草薙さんの幼馴染みらしい。この二人に関してはナツ派、ミヤビ派って別れるくらいに女子のファンも多いらしく、近くで見ても綺麗な顔をしている。
陽の光を受けても透けない黒髪ショートヘア、少し覗いた耳からは青色のピアスが光った。
「いや…無理だよ私は、運動不足の帰宅部だし…それに、陸上部の人たちがいるじゃん」
「えーっ。なんでそこで遠慮すんの。速い奴が走りゃいーんだよ、理屈抜きで。三学合同リレーは翔青高体育祭の名物って話だし」
「でも」
「つべこべ言わなーい。イエス適材適所。応援するよ? ミヤビ全力で」
腕を回されたまま顔を寄せられて、女子なのに何だこの口説かれている気持ちは。思わず顎を引いて目を白黒させていると、黒澤さんの顔面に容赦なく草薙さんの手のひらが入った。