さよなら虎馬、ハートブレイク
「体育祭の、三学年合同リレーに立候補したいんですけど」
「えっと…合同リレーの代表走者は学年でもタイムがトップの人から選抜って決まってるんだけど…とりあえず、名前聞いてもいい?」
「あ、違う違う! 走るのわたしじゃなくて、あの子!」
二人の様子を少し離れた距離で見守っていた私の方を、柚寧ちゃんと、その男子生徒が同時に振り向く。
急かすように手招きをする柚寧ちゃんに最後には小走りで駆け寄ると、「じゃーん、凛花ちゃんです!」と紹介された。こっぱずかしい。苗字を紹介して欲しかった。
「あ、小津です、A組の」
「…」
「…あの…?」
男子相手だから警戒して、目も合わせずに挨拶したけど反応がない。それどころか、なんか。なんか、すごい、
…すごい見られてる気がする。
隣の柚寧ちゃんだけが「?」を浮かべて私とその人を交互に見てる気配がして、意を決してそろ、と視線を上げると大きな黒い瞳と目があった。
「おいコラ塩見! 女子と戯れてないでこっち手伝えー」
「…あ、遊んでないです、すぐ行きます!」
「あ、ちょっとー! 凛花ちゃん立候補させてよね!」
「わかった、書いとく」
手にしたボードを軽く掲げて走り去る間際、また一瞬、その人と目があった。でも元の場所に戻って先生たちと普通に話してるのが見えたから、私の考えすぎだったのかもしれない。
☁︎
「6秒33? 小津さんめちゃくちゃ速いね」
お昼休み、中庭にて。体育の授業のことを話すと、ベンチの端に座っていた智也先輩が文庫本から顔を上げた。
「えへへ、走るのだけは得意なんです」
「女子で6秒台って多分いないんじゃない? 3年の女子でも確か7秒台だったと思うし…ねぇ、1位の子の記録覚えてる? 藤堂」
「7秒32」
「さすが。女子に関する無駄知識には余念がない」
「っていうかさっきから先輩は何をやってんですか」
ベンチの両脇に座る私と智也先輩の向かい、少し離れた距離で謎のポージングを決める藤堂先輩に指をさす。アレの奇行は今に始まったことじゃないにしても、いよいよ焼きが回ったのだろうか。
「なんか三学合同リレー走後のポージング練習らしいよ」
「三学合同…あ、やっぱ先輩も出るんですか?」
「出るも何もアンカーだよね。 1年の時も2年の時も、藤堂のおかげで優勝してるから」
「足速いんですね」
「教えたげたら、元何部だっけ、チアダンス?」
「Go Fight Win⭐︎ てばかたれ。陸上部だわ」