さよなら虎馬、ハートブレイク
戻して、汚しちゃったの、こっちだから。
「…それで、今日は。ローファーなんですよね」
2メートル離れた距離から先輩の靴を指差して、それから手を引っ込める。先輩はあぁ、と声をあげて、
「…スニーカー代払うってんなら諭吉さんじゃ足んないけどね?」
「えっ」
「元値24,000円。あっ、でもアウトレットで買ったから12,000円で済みました~」
Vサインを掲げて告げる先輩にあんぐりと間抜けに口を開いて、それから慌てて財布を広げる。やばい、二千円しか入ってない。昨日CD買って補充するの忘れてた。
どうする他に何か代わりになるもの、と慌てて鞄を漁っていると、忘れた頃に「なーんてね」と声が降って来た。
「6,800円だよ。元値12,000円だけどアウトレットで店員のお姉さん値切り倒して驚きのこの価格」
「………騙したの」
「なんとなく」
言うなり滑稽な顔でべ、と舌を出す先輩。てことは、お金ちゃっかり足りてますってか。アホらしい。あんたのせいで私は貴重な人生の3分間を無駄にした。
そんな私の感情が今度は露骨に出ていたらしい。苦虫を噛み潰したような顔をする私に先輩は封筒を持ったまま、腕組みをして顔を傾ける。
そしてニヤリと笑ってこんなことを。
「怒った顔も可愛いね」
死ね。
「あ、ちょっと待ちなって」
体を翻す私にすかさず追いかけてくる気配がする。
「近付かないでください」
「金! いらねーって、何もお礼欲しさに君を助けたわけじゃない、なぁ!」
ガシッと肩を掴まれた途端、条件反射で学生鞄を振り回す。それが顔面に当たったらしく「ぐはっ」と声を上げて黒い影がぶっ倒れた。
「近付かないでって言ったのに触るから!」
「…」
あ、今のはさすがに怒らせた?
尻餅をついたまま額を抑えて無反応、じゃそう思うのも無理はない。だから相手が出し抜けに立ち上がった瞬間思わずとっさに身構えた。
そして俯いたままこの一言。