さよなら虎馬、ハートブレイク
 

 教室を出るとついてきて、と言われて、言われるがまま後を追ったら中庭に連れて行かれた。

 普段、お昼なんかにしょっちゅう利用している場所だ。時々上級生のカップルが盛大にイチャついている時以外は、静かだし人も多くないから、私も好んでよく、来る。


 なんの前触れもなく前を歩いていた背中が立ち止まって、私もあわやぶつかる寸前で立ち止まる。
 そしてベンチに座ったかと思うと、天の河はその隣に一枚のプリントを置いた。


「はい、凛花ちゃん」

「? 何これ」

「三学合同リレー走者の順番だよ。学年からは二名代表が選出されて、三年生が一、二年の走者順序を決めるんだ。

 凛花ちゃんは、第二走者みたい。今は走者順しか載ってないけど、そのうち何団とか決まった後、放課後練習で他のメンバーもわかるから」


 あ、ああ。三学合同リレー。あ、正式に決まったのね。

 その話で呼び出したのか。あーなるほど。なるほどです。なるほど。
 鬼頭先生や柚寧ちゃんが変なことを言うから、妙に構えてしまった。この意識が不純なんだ、気持ち悪いんだ、と湧いてくる邪念をふるふると振り払って、すとんと隣に腰掛ける。

 藤堂先輩や智也先輩以外で、男の子の隣に座ったのは、はじめてだ。


「…天の河、体育委員なんだね」

「え? うん。結構体力使う。先生、めちゃくちゃこき使ってくるし、だから昨日ちょっとだけ保健室でサボった」

「あれサボりだったんだ、わる」

「でもそしたら凛花ちゃんに逢えた」


 静かな声に言われて、思いがけず心臓が跳ねる。

 昨日も思ったんだ。落ち着いた声も、七年前は甲高かった声も。当たり前だけど声変わりしていて、並んだら私より背が高くて、あどけないばかりだった大きな瞳は、くっきり刻まれた二重瞼の下で強い光を孕んで、時折強く揺れる。

 男の子は、男の人になった。
 …泣き虫は、じゃあ何になったんだろう。


「部活も、剣道だっけ。友だちが言ってた。なんか意外」

「強くなろうと思って」


< 122 / 385 >

この作品をシェア

pagetop