さよなら虎馬、ハートブレイク
ええいと勢い任せに廊下側に二人してすっ転び、肩で息をする智也。床でへばったままの藤堂は少し間を置いて、むくりと起き上がる。
「あいつ誰?」
「いやだから知らないって…」
「藤堂先輩?」
背後から届いた声に、二人揃って振り向く。するとそこに、チアガール姿でぱあっと目を輝かせている柚寧の姿があった。
「やぁっぱり! わーこんなとこで会えちゃうなんて、奇遇ですね!」
「いやここ三年の教室だからね。ってかどったのその格好」
「えへへ! お気付きですかあ! これ体育祭でやるチアダンスのコスチュームです~っ! 私レクリエーション委員なんで、三年の先輩に頼んで一足先に服の採寸してもらってました♪」
くるんと回ってごー、ふぁい、うぃん!と黄色いポンポンを掲げてみせると、ポカンとする藤堂、智也。その二人を見てから彼女は慌てて赤くなる。
「わわ、はしゃぎ過ぎちゃった…ごめんなさい、に、似合ってない…ですよね」
「いや似合ってる。可愛いよ」
「本当ですか!?」
藤堂の素の反応に、出会した時よりとびっきりの笑顔を振りまく柚寧。そして智也と目があうと、ポンポンを口元に置いたまま藤堂に視線で訴える。
「あ、こいつ俺の友人の智也ね。前言ったっしょ。で、この子がオズちゃんの友だちの柚寧ちゃん」
「よろしくお願いしますっ」
笑顔満点の柚寧に、智也は同じく笑顔の軽い会釈で返す。そしてふいに外の様子に気付いたのか、柚寧も藤堂と同じように窓に身を乗り出した。
「いやちょ、あぶない」
「あーっ! 凛花ちゃん! 早速塩見くんと良い感じなんだあ」
「え、知ってんの?」
「はい! 凛花ちゃんから聞きました! 小学校のときに転校しちゃった同級生らしいですよ。なんでも、いじめられてた所を凛花ちゃんが助けてたんだとか。でも大きくなってから再会果たすって、本当運命って感じですよね! ロマンチック~♡」
「…へぇ」
ポンポンを両頬に添えて身を捻る柚寧、その隣で遠巻きの二人を眺めたまま軽い相槌を返す藤堂。遠巻きからでもわかる二人の距離をじっと見据えていると、その服の裾をきゅ、と掴まれた。
「そうだ藤堂先輩、一緒にレクやってる教室来てくださいよ!」
「え、いや」
「チアガールの宝庫ですよ♡」
「よし行こう」
「おい、藤堂次現文」
「遅れて後ろから入りまーす」
軽い敬礼と共にぱたぱたと駆けていく藤堂と柚寧、そして中庭で笑顔を見せる凛花と、塩見。その交互を見てから、智也は軽い息を吐く。
「…なんか雨降りそ」
そして雲一つない青空を眺めて、ひっそりと呟いた。